第16話 到真、陰陽師を鍛えるってよ②
それからしばらくして二人は杉並区にあるとあるスクラップ場にいた。
自動車や機械などの廃棄物が散乱する中にある広めのスペースでこれまたお互い向かい合っていた。
先の喫茶店の雰囲気とは違い二人はまるで真剣勝負に臨む戦士に見えなくもなかった。
到真は制服のブレザーを脱いでYシャツと学生ズボンの軽装で鳴の方も学生服なのでお互い服の性能差はない。
だが鳴の方は色々先や字がかきこまれた札を用意しているのに対して到真は得物は何も装備していない。だがそれはおごりもなく謙遜もない。
「いつスタートで?」
「私の方はいつでも」
「んじゃ、これで」
そう言い到真はポケットからコインを出すとそれを上へと弾いた。
宙を舞うコインが地面へと接した瞬間に両者は動き出した
「【雷精変成槍、急急如律令】!」
唱えられた詠唱から鳴の霊力が雷へと姿を変えて顕現する。
顕現された3本の雷槍は到真へと穿かんと迫っていった。本物の雷の速度で迫る雷撃に対して到真はなんのそのままそれを弾いた。
弾かれた雷撃が周りの鉄屑の山へと直撃して直径1㎝くらいの穴をあけるが弾いた方の腕にはかすり傷すらなかった。その様子に到真はなんの表情も変えない。
しかし鳴の攻撃は続いた。
「【雷精変成縛陣、急急如律令】!」
その直後に到真を中心として一辺10mの正方形が展開されてその領域内に到真ごと雷撃が絶え間なく直撃し動きを封じていた。
この術、【雷陣爆鎖】は鳴の持つ術の中でも高威力を誇るものだ。この術は一定領域内の対象に絶え間なく雷撃と流し攻撃と動きを封じる効果を持つ術である。
消費霊力はかなり多いものの絶え間く続く雷撃によって妖だろうが、人間だろうが動きが麻痺してしまう。
それの無限ループによって対象をその命が尽きるまで封じる術だ。落ちこぼれとされてきた鳴が少しでも強くなるべく努力した末の術でもある。
明らかにやりすぎな術だが鳴の本能が出し惜しみすれば勝負にならないことを告げていた。そのために遠慮はない。
だがその雷撃も無限には続かなかった。
「【無へと帰せ】」
そう聞こえた直後、死の間際まで封じる雷撃が霧散したのだった。
雷撃による焼け焦げた臭いが周りに漂うが到真の肉体にはなんの効果もなかった。強いて言うならワイシ|ャツが少し焦げていたくらいだった。
「化け物め.....」なんて鳴が愚痴るが到真は気にせずに「ふむ」と少し考察した。
「さっきの術、威力は遥かに劣るが軍用魔術の【プラズマルーム】みたいな感じだったな。しかしさっきの雷撃にしても少しおかしいな。俺の目を少しばかり使ったが術式としては問題ない。霊力も十分......やはりそういうことか」
独り言ににた何かをつぶやいた後に今度は到真の番へと移った。
「目をそらすなよ」
その言葉の直後だった。一瞬にして間合いを詰めた到真に鳴は咄嗟に拳を放った。だがそこの拳は空を切りその瞬間鳴の世界は反転した。
否、鳴が一回転して地面へと叩き落されていたのだ。
背中を途轍もない衝撃が襲い鳴の身体は衝撃のあまり立つ機能がマヒしてしまった。
その真横には到真が立っており、恐らくだが合気の要領でやられたのだろう。身体能力もそうだが技術としても到真は鳴のはるか上にあったのだ。
降参、と鳴が告げて夕方の一本勝負は幕を閉じた。