第15話 到真、陰陽師を鍛えるてっよ①
あの後猫を近くの交番に届けて保護してもらい二人は駅前の喫茶店にてお互い席に向かい合っていた。
何も知らない人から見れば男子高校生と女子高校生が仲良く喫茶店で過ごしているとも思えなくもないが鳴の方は笑ってはいるもののどこか冷や汗をかかせるものも抱えていた。
お互い自分の分は自分持ちの下に到真はケーキを、鳴はココアを注文してから時間が経過していた。
結界に近いものを鳴が店に入る途端に張っており会話が周りに聞こえる心配はない。
「それでどういうことなの?」
「どういうことと言われましても.......ゴメンナサイ冗談です。」
ココアを飲みつつ取り調べる刑事の雰囲気で問い質す鳴に対して到真は誤魔化し笑顔で乗り切ろうとしたが睨み付けられて縮みこんでしまった。
「貴方あの時ズルしてないというのはうそだったの」
「いやそれに関してマジです」
「じゃあさっきのはどういうこと?ただの高校生じゃあ通用しないわよ」
流石に異世界の話をするわけにはいかない。ここは現実世界の話で乗り切るとしようとすると、咳払いをして真剣に到真は語りだした。
「実は7年前に前に事故にあって生死の境を5年間さまよっていたんだ。」
「五年間も?」
「ああ、そして目覚めてからすぐとして色々な能力に目覚めたんだ。」
噓は言っていない。実際に到真を現実世界の話で見たら今の説明に間違いはなく仮に噓を見抜く方法があったとしても噓は一切ないため貫き通せるはずだ。
説明を聞いた鳴はしばらくした後に納得した感じとなった。
「確かに生死の境をさまようことで能力に目覚めるケースは実際にある。それにうそをついている感じでもないし.......って待って、7年前?」
「そうだがどうした?」
「それって一クラス分の小学生がバスに乗っていた時に事故が起こったてやつ?」
「ああ、間違いない。」
「あの事故の生き残りだったの。道理で........」
一人自分の考察を立てている鳴に対してどこかいぶかしげになる到真。その目線に気づいた鳴は「次はこっちの番ね」と前置きすると
「私は陰陽師の一族の出身なの。って何その目」
「いや初対面の陰陽師がこういう感じだったとはなと。それとあの事故について何かしっているのか?」
「イロイロ言いたいことはあるけどまあいいわ」
これ以上いっても時間の無駄だとしてココアを一気の飲みすると鳴も咳払いをして
「実はあの事故には不可解な点が多いのよ」
「不可解な点?」
「そう、表向きはエンジンの不良事故と運転手のミスとされたけども事故が起こった前日はこれでもかと安全点検がされていたのよ」
「なんで?」
「そこまでは知らないわよ。けど実際に術師、それも滅多に表に出ない阿部家の人間までも同席していたそうなのよ。事故が起こった後の現場の調査にも同席していた。私も術師の一環として手伝っていたのだけれども隠蔽している感じでもなかったし、さらに真相解明に動いたにも拘わらず結果として真相はわからなかったのよ」
(多分異世界召喚術式の影響だな............)
いくら陰陽師や妖怪がいたとしても異世界については到真以外に証人がいないので現時点では信じられまい。
それよりも到真にとって術師の世界がより自身の身近にあったことの方が内心衝撃だった。
「それよりも」とそんな到真を尻目に鳴の追及は緩まず
「貴方のその力はハッキリ言って強いとかそういう話じゃない。思念型とはいえ鬼蜘蛛をワンパンなんて上位の術師でも無理よ」
「え、あれが?」
「本来は中堅の術師が複数人、上級の術師なら一人で倒せるといえど油断すればやられてもおかしくない強さなの」
「そうか?雑魚でしかなかったんだが」
「..........................ねえ、取引しない?」
「取引?」
先の話から一転して取引の話になり到真は内心警戒気味になる。顔に出てないがいざとなれば《《手荒にやらなければならない》》。そう構える到真を知ってか知らずか彼女は頷いて
「その時その時でいいのだけれども貴方の力を借りたいの。別に違法なことはさせないわ。少し私の仕事を手伝うだけよ。当然これにもお礼はしっかりするから。」
「俺なんかでいいのか?」
「実力はさっきのでこの目で見たから問題ないわよ。例えばどこに妖がいるかを教えるとかね」
明らかなレーダーを知る発言に少し眉間にしわがよる。しかし彼女は警戒する猫をあやす感じでさらに語り掛けるのだった。
「確証はないけど貴方はあの時どこに妖怪がいるかわかるかの如く移動していた。道具か術かどちらかといえど貴方には妖を探るすべがある。それで得た位置情報を私に伝えるとかね。当然これにも礼はするわ。」
「報酬はどれくらいか.....」
「ケースバイケースだけど最低でも5万、さらに協力するなら百万は出す」
「百......!。.......マジで?」
「マジ」
彼女の目にはそれくらい払えるという確信があった。
いくら術師といえど16歳歳の少女ですら万札の束をポンと払えるのか。現実世界の金銭事情については庶民派な到真にとって明らかにこの提案は魅力があった。だがこれだけははっきりさせなばなるまい。
「なぜそこまでして協力を仰ぐんだ?」
「術師の世界はいつも人手不足なのよ。」
「本当にそれだけか?」
「.........何が言いたいの?」
「本当に人手不足だけかということだ。そこをはっきりさせないと到底協力する気にはなれない。」
異世界でもそういうところははっきりさせなければならないパターンはたくさんあった。またそういう確認を怠ったことによる弊害も同様だった。いくら彼女の提案が魅力的でも使いつぶすような展開になればこちらとしても相応の対応をせねばならない。いくら協力的でも死んでしまっては元の子もないのだから。
そうした意志の下に質問をすると鳴はどこか悔しさと自嘲を感じる顔になり語った。
「今私の実家ではいわば次期当主継承権争いの状態になっているの。次期当主の決定方法は一定期間内の決められた時間にどれ程の妖を倒せるか、自分で言うのもだけどね私はいわば”落ちこぼれ”なの。けど私にはどうしても当主にならないといけないの。当主になれば私の目的の大きな助けになる。目的は言えないけど権力とか名誉とかそういうものはいらない。世界を滅ぼしたいとかそういうのでもない。知れば周りの人は嘲笑うかもしれない。けど私にとっては何よりも重要なの。その為には手段を選ぶ余裕なんてないのよ。」
当主になりたいという意思、落ちこぼれであることの劣等感、自分だけのためで他人を巻き込むエゴ、様々な感情が鳴を渦巻き途中で泣き気味になりつつも彼女は自分に協力させる目的を語った。
落ちこぼれの烙印と共に地獄を見てきた到真は彼女にどこか共感と同情を覚えると三つのことを語った。
「一つ、俺についての詮索をしないこと。二つ、一連の件については俺の存在を秘密にすること。三つ、報酬については前金はもらうが精々20万くらいでいい。ただしお前の目的が果たされたら最低でもその10倍はもらう。これらを守るんだったら協力してやる。」
「いいの....?」
実質彼女の目的達成まで助けると言っているようなものだ。涙で少し腫れた顔を整えつつ到真を見たがその顔は先ほどまでとは違い歴戦の猛者に匹敵するものだった。
「こっちも少し目的があってな、お前と協力する方がいいと判断したからだ。自分の目的のため、お前と同じだ。だがお前から裏切るような真似をしない限りは見捨てはしない。ほら、涙ふいとけ」
「うん........。ありがと」
渡されたハンカチで涙を拭くといつもの美少女へと戻った。
「ならまずはお互いの戦力確認が最優先だ。もしできるのならこのままチェックしたいんだがどこか人のいなくて広い場所はあるか?」
「それなら少し遠いけど誰も使っていないスクラップ置き場がある。自主練に使っているし、人払いも張ってあるから問題もないよ。」
「俺はいいがお前はどうする?」
「このままいく。時間がないから」
「んじゃ、いくか」
こうしてのちの世に【天巫女】として名を刻む雷崎鳴。彼女の躍進はここから始まるのであった。




