第11話 邂逅⑤
来てしまった。来てしまったよ。
3限目までの授業を乗り越えてやってきた4限目の体育。天理到真16歳は始業式とは違う緊張に襲われていた。周りのクラスメイトたちは何とも思っていない雰囲気だったが到真としては早く終わってください、お願いします。と内心懇願していた。
「よ~し。知っていると思うが今日はスポーツテストだ。今日はハンドボール投げと50メートル走を行う。男子はまず50メートル走、女子ハンドボール投げだ。どちらも終わったら今度は入れ替えて行う。早く終わったからとさぼらずにどちらも手際よく終わるように次の準備などをしとけよ。」
いかにもがっしりしたスポーツ刈りの男性教師、剛田という名字の体育教師の指示の下、生徒たちはスポーツテストの態勢になった。
到真は出席番号は3番目なのでこの時は自分の名字を呪っていた。
1,2番目のクラスメイトの走り方を参考にしつつ、初日での反省から身体強化なし、ランニングくらいの勢いで走ればいいのかなど考えたが間もなく到真の番が来た。
「よーい、ドン!」
入学初日に決められた男子体育委員の指示の下スタートした到真はランニングくらいの勢いで走り50メートルを完遂した。いざ記録、と先生の下へ行くとまたまた信じられないことが起きた。
「3....3秒78」
「は?」
明らかに世界最速記録を塗り替えている到真はこの事態を前にフリーズした。
「先生噓でしょ?噓ですよね?なんで世界記録塗り替えているんですか?」
「いや....噓でもないのだが......。後でもう一度測るか」
「そうですよね」
信じられないとお互い困惑した顔になるが後で測りなおすことでこのけんがは一時的に決着させた。
きっと計測器の故障だろう。そう自分を納得させた到真だったが、男子全員の測定を終えた後、前の何倍も手をぬいて走ったが悲しきかな、現実は非情であり、
「5秒56」
「..............................................................」
先ほどとはましだがそれでも世界記録に匹敵する記録を叩き出してしまった到真。
顔は冷や汗だくだくであり、周りのクラスメイトも信じられないものを見た顔になった。
そうして変な空気になってしまった中、ハンドボール投げに移った到真だが先の注目のせいで気分は最悪だった。
いざ投げようとした際
「世界記録更新とかありかよ.....」
「ドーピングしたとか」
「買収してんだろ」
など本人たちはひそひそのつもりでも到真にはハッキリ聞こえており、ひどいときにはこれをネタにしようなんぞ聞こえたため少しばかりイラついていた。
(少し脅すか.....)
そう決めた後、到真は投げる態勢にうつり、
「ウラッア!」
ドゴッッッッ!!!
声とは傍らに地面へと向かって投げられたボールは出してはいけない音を出しつつバウンドしたがその勢いは放たれた砲弾を思わせるかのごとく計測のために離れていたさっきまでひそひそをしていたクラスメイトのギリギリをかすめて跳んだ。
「ヒィッ!?」
「ア、ゴメン。ミスリマシタ。」
(((下手すりゃ殺されるかも...............!)))
一応謝罪する到真に対して弄ろうとしていたクラスメイトが生まれたての小鹿の如く足を震えさせへ立ってしまっていた。
他のクラスメイトも到真への過度ないじりは禁忌としてまだ死にたくない為にも心に刻み込んだ。
その後は到真はハンドボール投げはクラス最低記録として記載した後、一連を見ていた剛田先生の注意と陸上部への熱烈な勧誘があったりとしながも何とかスポーツテストは終わりを迎えが........
「頼む!是非とも野球部に!!」
「いいや!あの走りを見ただろう!!彼は陸上部が相応しい!!!」
「フットボール部はどうかね?今なら美人マネージャーつけるよ。」
「ええい!お前らしつこいんじぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!」
昼休みになったが、体育の様子を窓から見ていた他の学年の運動部の先輩や顧問たちが到真を確保しようと、熱烈な勧誘をしてきたので到真は絶賛逃走中であった。
逃げても逃げてもかぎつけてくる先輩たちから逃走する到真の様子はまるで飢えたハイエナたちから逃げる一匹の可哀想な草食動物のようだ。
だが、その逃走劇も先輩たちが包囲してきたことで手荒に行くしかないのか、と内心覚悟した直後に終わりを迎えたのだった。
「すいません先輩方。少し彼を貸していただけないでしょうか?」
丁寧な口調に心に響くと錯覚させるほどきれいな声がしたと思ったら一人の美少女が到真と先輩方の間にに立っていた。
その顔はどこまでも透き通って奥底が見えないくらいに艶々な肌。金髪のツインテールだが一切の曇りを感じさせずまるで金色に輝く太陽な明るさ。表情はそれらとは対照的に彫刻のごとく無機質な感じがしたが一切の美しさのバランスを崩さず、むしろ彼女を引き立たせていた。
そんな彼女は動かずにいた先輩に目もくれず到真に近づくと一言話しかけた。
「少し話がしたいのだけれどもいいかかしら?」
野次馬だった男子連中がグギギ...!と血涙を流すような声がしたが到真としては勘弁して下さい.......。なんて、心の中で少し泣き気味であった。