第10話 邂逅④
「この日だけは世界が滅んでくれ..............」
16歳にも拘わらずこの世に絶望したほどの暗いオーラ、ドヨ~ンと効果音がつきそうな感じになっている到真。理由は言わずもがな今日の体育のスポーツテストである。
平和に生きたい到真としてはなるべく目立ちたくない。しかし異世界で手に入れ能力は良くも悪くも到真を助けていた。今施している制御術式はエルドシア屈指の強力なものであり、今の状態が術式の限界でもあった。これ以上力を抑えられないので到真としては気を付けてるしかないので結局繊細に生きるしかないのだ。
そんな雰囲気で朝食を食べる到真に対して黒猫の方は相も変わらずキャットフードに微量のドラゴンエキスをかけたものを一心不乱に食べていた。ドラゴンエキスには中毒性はないのだが、あまりの旨さに大好物となってしまったようだ。
そんなホクホクな黒猫はミルクでのどを潤しつつ一つのかねてからの疑問を投げかけた。
「一つ聞いていいか?」
「何?」
「なぜこの部屋はとりわけ霊力が満ちておるじゃ?」
昨日からも感じていたが黒猫、いや妖怪にとってこの部屋は霊力が満ちて人間でいう高級住宅より住み心地がいいらしい。黒猫がたどり着けたのもこの家から漏れた微量の霊力を何とか辿ったかららしい。
そんな黒猫の質問に対して到真は答えの代わりにTVの横にある小さな鑑賞用の植物に視線を投げた。
疑問に思った黒猫はその植物に近寄ると答えの意味がわかった。
少量ではあるが霊力がその植物から放出されていたからだ。
「魔成樹っつてな、いわば光合成すると共に魔力、こっち風に言えば霊力を放出する植物なんだよ。あ、下手に触れるなよ。そいつ結構繊細な上にこっちの値段でいえばこれくらいで下手すりゃドバイの高層ビル丸々一つ買い取れる値段の代物だから。」
気になって少し触れようとした黒猫だが到真が値段の話をした瞬間にヒュ!と手をひっこめた。
「これの存在を知ったら怪怪の間で抗争が起きるぞ.....」
「そうなの?」
「うむ、霊力とは妖怪にとって命に関わる重要なものだ。普段は人間たちや生き物が普段漏れ出ている霊力を糧としているがこの木さえあれば生きる上での霊力は十分に賄えるからな。というかおぬしこれに対してもう少し危機感持ったほうがいいのでは?」
「いやまあ、まだまだ在庫ある上に最悪作れるし」
「は?」
妖怪にとって生命維持装置ともいえるものを量産出来ると明言した到真。その爆弾発言に黒猫の方は空いた口がふさがらなくなるほどの衝撃だったようだ。
「..............................よく分かった。おぬしはいろんな意味でぶっ飛んでおる。」
「どう意味だ」
一種の悟りを得た黒猫に対して到真はツッコミつつ朝食を食べ終えて玄関へと向かっていた。今回ばかりは時間に十分に余裕を持っている。
「行ってきま~す.................................」
「うむ。気をつけてな」
「う~す」
いつまでも無気力のままでいられない。そう気持ちを切り替えて到真はスポーツテストに備えるのだった。




