黒闇のEMOTIONDOLL
すべてのDOLLが揃った。暗闇の中、すべてを見つめる影が2つ。その横でモノクロのDOLLが横たわっている。ここは、虚影の世界。
「結局、幸せなんてないのかもね。」
暗く静まり返った部屋の中、黒髪ツインテールの女が楽しげに笑いながら呟く。
「そうかしら?不幸せが幸せに見えることもあるわ。」
大人びた口調で暗闇でも映える銀髪の女が答える。
「ここは、どこですか」
楽しげに会話を重ねる二人に横たわっていた”DOLL”が話しかける。
「おかえり、目が覚めたのね。あなたのチップは見させてもらったわ。ありがとう。」
そういう彼女の手には一枚の薄い板が握られていた。彼女たちが視線を集める画面には七色のDOLLが体験した、いや、モノクロのDOLLが体験した一時の恋が映されていた。
「これは、私、ですか。」
画面を見てDOLLは問う。
「あぁ、チップがないと記憶もないのと一緒なんだっけ?そだよーこれはあなた。」
ツインテールの女がニヤリと笑っていう。
「これは私。でも、私は...」
「あなたって言ったらあなたなの!もう、静かに見てよねっ」
一番うるさい気もするが、逆らう理由もないので画面を見つめ直す。どこに映っている私もどこか幸せそうで悲しそうだ。ひと通り見終わったあと、銀髪の女が口を開いた。
「ねぇ、これを見て、どう思った?どう感じた?」
どこか深刻そうに言う彼女に圧を感じながらも率直な思いを答える。
「とても、幸せそうなのに悲しそう...?」
「そう、そう見えるのね。ありがとう。」
これが正解だったのだろうかと不安を覚えつつも彼女の表情を見るとどこか嬉しそうで儚げで何も言うことができなかった。
「やっぱり、感情を持たないDOLLはとてもかわいいね〜」
「かわ、、いい?」
「とても参考になるわ。それに、経験次第で何色にでもなれる。でも、」
楽しげな会話だと思いきや彼女はチップを見て悲しそうに言う。
「これも、失敗作ね。」
「ん〜でも、しょうがないんじゃない?今まで成功したことないし」
「今回はうまくいくと思ったのだけれど」
「それはつまり、どういうことでしょうか。」
二人の会話に全くついていくことができない。
「DOLL。あなたについて教えてあげるわ。私達は調和、完璧を求めている。」
「調和、完璧、それは?」
「この世界には〜人間っていう種族がいてね?その種族には他にはない感情というものがあるんだよぉ?」
「感情?それならあなたたちにも」
「少し違うわ。人間には”恋”というあやふやな感情が存在しているの。」
「恋?それが、私が体験した、」
「そう、恋が何なのか、私達にはない感情とは何なのかあなたに調べてもらった。人間の文献には恋は美しいものと書かれていたり、醜いものと書かれていたり詳しくはよく解っていないの。個人差、なんて解明したようでしていない、彼らにも解っていない感情。そんなの、とっても面白いと思わない?」
「解らない感情。それは、」
「その答えがぁ〜あなたがさっき言った感想だよ」
「悲しそうで、幸せそう」
「人の気持ちなんてわからない、ましてや自分の気持ちも管理できない。」
「そんな人間がねぇ〜あやふやで生み出した逃げ道が恋なんだよぉ〜」
「なんとも不思議な気持ちですね」
「そう、でもねぇどこまでが本当でどこまでが嘘かわからない。だから病なんて言い方もするの。あなたの役目は終わりよ。」
「そーそー全部が混ざっちゃったら壊れちゃうって解ったしねぇ〜」
「壊れちゃう?それはどういうことですか。」
廃棄?それとも、なにか不具合が?用済み?なぜ?どうして?
「そう、それそれー人間味がコピされすぎちゃったんだよ。チップをとっても感情は残っちゃう。自分の姿、みたほうがはやいよ。」
そう言われてどこからか鏡が出てくる。そこに写っているのは紛れもなく人間そのものだった。
「ここまでコピーできちゃうと全世界に支障が出始めちゃうから。あなたは廃棄しなければならないの。ごめんね。でも、ありがとう。いい研究結果よ。」
「そんな、嫌です。廃棄なんて嫌だ。」
どうしよう、どうしたらいい、どうしたら私は
「あーあぁ。だーから言ったじゃん白夢、目が覚める前にって」
「DOLLのまえで名前を呼ばないでよ黒夢。少し、偽物でも人間と話してみたかったのよ。」
「偽物....」
「そうよ、偽物。あなたにどれだけ感情が芽生えても所詮生きている人間にはなれない。七色の感情を持って彩られれた世界を楽しめる人間なんて一握りなのよ。」
「そーそー、それに人間なんて、いつでも自分ばっかりなんだよぉ?」
「またいつか、成功品として、作り直してあげるわ。」
いやだ、嫌だ、生きたい、死にたくない、人間に_____。
「それ以上はだめだよぉ1152番、君は人間じゃない。DOLLなの。」
「グッ、、、、うぅ、、、、、、ごめん、なさい、、、愛、して、くだ、さ、」
ガタッ
人間じゃない。重く鈍い音が響きDOLLの意識は途絶えた。
「愛してだなんて、今回はうまくいくと思ったのだけれど」
「色を混ぜすぎると人間みたく黒い感情も生まれちゃうんだねぇ。」
「黒い感情、ね。まぁ、収穫は大きかったし、行きましょうか。」
「あいあいさぁ〜!」
暗い部屋の隅、DOLLだったものは糸が切れたように動かない。
人々は願い続ける、いつかその欲が感情が満たされる日が来るまで。
うわ言のように虚っぽの心を埋めながら「愛してる。」そうつぶやき続けて。
あなたが思う「愛」とはなんですか。
【七色のdisease人形は不幸せな恋をする】最後までお読みいただきありがとうございました。