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夕闇のDUSKDOLL

夜の帳が降りる頃、私はまた夢の世界へ引きずり込まれるように目を閉じた。寝室の窓の外には、満天の星々が輝いている。この体は、まるで見えない糸に操られるかのように起き上がり、寝間着のまま玄関の扉を開け放ち、夜道を歩き出した。

その先に待つのは、村外れにある彼の家。幼い頃からの幼馴染であり、心の中でずっと想い続けている相手だった。だが、彼に会いたいというのは私の意志ではない。無意識に体が動き、彼の元へと向かう。何度も同じ夢遊の夜を繰り返すうちに、私の心にはどうしようもない悲しみと虚空が降り積もっていた。

彼は、いつも家の玄関先で私を待っていた。最初は驚き、そして心配した彼だったが、毎晩現れるこの体を追い返すこともできず、ただ静かに見守るようになっていた。眠りの中でさまよう彼女の無防備な姿に、彼は切なさと同時に、自分が彼女を救えない無力さを感じていた。

「いらっしゃい…」

彼がそう呼びかけても、彼女はただ夢の中でぼんやりと立っているだけだった。まるで、自分が想っている相手がここにいるのに、心が通じ合わないもどかしさが二人を苦しめていた。

ある晩、夢遊の途中でふと意識を取り戻した。気が付くと、目の前には彼が立っていた。彼の目には戸惑いと優しさが混じり、月明かりに照らされたその姿が胸を締めつけるほど美しかった。

「私…ここにいるの?体が、動かせる....」

震える声で尋ねる。彼は優しく微笑み、頷いた。

「毎晩、君がここに来るんだ。無意識のままで。でも、君が望んでいることなのか、俺には分からない。問いかけても答えてくれないのは不思議といるのにいないんだ。」

彼女は涙を堪えながら、か細い声で告白した。

「私、あなたのことが好き。でも、私の体が勝手に動いているだけで…本当の私の気持ちが届いているのか分からない、自分の意志で動かせないのが怖いの」

彼は私の手を取り、真剣な眼差しで言った。

「俺も君が好きだ。だけど、このままでは君も俺も苦しむばかりだ。どうにかして、この夢遊病を治さないといけない」

二人の心が初めて通じ合った瞬間だった。だが、それでも私の夢遊病が治る兆しは見えなかった。それどころか、悪化の一途をたどるようになった。

彼女は、毎晩村中をさまようようになった。俺の家に行くだけでは飽き足らず、時には危険な場所に足を踏み入れることもあった。彼女の家族は心配して見張りを立てるようにしたが、それでも彼女を完全に止めることはできなかった。

ある晩、彼女は村外れの断崖へと足を進めてしまった。その先には、夜の闇に飲み込まれるような深い谷が広がっていた。この体はその場で足を止めることなく、ふらふらと歩き続けた。そして、誰にも見つからないまま、そのまま谷底へと消えていった。

翌朝、村人たちは崖の下で彼女を発見した。その知らせを聞いた俺は、全身から力が抜けてその場に座り込んだ。

「どうして…俺がもっと早く気づいていれば…」

彼女が最後に口にした言葉が耳元で蘇ったような気がした。

「自分の意志で、あなたの元へ行きたかったのに…」

心には後悔と悲しみが渦巻いていた。それでも、彼女が本当に自分を想ってくれていたという事実だけが、この心を辛うじて支えていた。

だが、彼女がいなくなってからというもの、彼の様子も次第におかしくなっていった。食事を取ることも忘れがちになり、夜になると眠れない日々が続いた。そしてある日、彼はふと自分が彼女の夢遊病に似た行動を取っていることに気づいた。

この足は、まるで誰かに導かれるように村外れの断崖へと向かっていた。彼の心は、その瞬間、全てを悟った。

「ねぇ…俺も、君の元へ行くよ」

目の前には、微笑む彼女の姿が見えた。彼女の笑顔は、生きている頃と何一つ変わらなかった。口だけが動かせる。体を動かすことはできずとも怖くはなかった。

「ずっと待ってたよ」

その声を聞いた瞬間、この体は崖の先へと進み、その姿は夜の闇へと溶けていった。

村人たちは翌朝、崖の下で彼の姿を見つけた。だが、彼の顔には穏やかな微笑みが浮かんでいた。

それ以来、村では二人の魂が断崖の上で寄り添い合っているという噂が広まった。夜になると、月明かりの下で二人の影が見えることがあると、人々は語り継いだ。

互いの想いが交わり、夢の中でも現実でも届かなかったその愛は、ようやく永遠のものとなったのだった。

ある日、村人が崖の近くを通ると楽しげでいて儚い声が聞こえた。

「        」

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