希望のPRAYDOLL
あの日、君は言った。僕らに絶望はないと。君がいたから輝いていた日常も暗い夜とは真逆の真っ白な病室で終わりを告げていた。終わりたくない。そう一等星に願ったのはそこに君がいて、君に会える気がしたからなんだ。泣いてばかりの僕を君はいつものように笑うだろうか。ふと頭に君の顔が浮かぶ。涙が溢れた。皮肉にもこんな涙も星のように輝いていた。
今日は一週間ぶりの学校だ。検査入院だけで一週間もかかるなんて。衣替えはもう終わっているから、分厚目のブレザーにネクタイを締めて外へ出る。寒くないですか?シンプルに。確かに昨日は車で送ってもらったわけだし、夕方だったからそこまで寒くはなかったよ。でも、早朝だからって寒すぎないですか?まぁ、でも、あいつに会えるのだからよしとしよう。
久しぶりの学校復帰だったため、先生との話が長引き、朝学活の途中から教室に入ることになった。まぁ多少注目は浴びたが、もともと教室でも空気的存在だったので、特に誰も話しかけてこない。そんなのはどうでも良いから。早く昼休みになってくれ。僕の想いはこれだけだった。このために学校へ来たんだから。長い授業、つまらない日常、そんなもののために学校に時間を費やすなんて無駄だ。でも、屋上であいつと話す時間。それだけが僕の生きがいだから。
キーンコーンカーン
チャイムがなると同時に学食に走るやつや弁当を開け始めるやつ、教室も廊下もご飯の匂いで包まれる。そんな中僕がまっすぐ向かうのは、通常出入り禁止の屋上だ。あそこにあいつがいる。あいつはあそこにしかいないから。あそこでならあえるから。昼食に浮かれる人たちの流れに逆らい、ようやく屋上へとたどり着いた。
ガチャ
「なぁ、久しぶり。ごめんな、病院長引いちゃってしばらく来れなくて。」
そうして語りかけると、少し怒った表情をしながらも、あいつは笑った。
「今日の昼は焼きそばパンなんだよ。朝忙しくて弁当が間に合わなくってさ。ほんと、困っちゃうよな。まぁたまには焼きそばパンも美味しいけどね?」
こいつといると、何もかもがどうでも良くなってくる。昼休みが終わるチャイムなんていらない。ずっとこのままで、そう思うのに毎回しっかりとチャイムはなる。
「なぁ、いい加減教えてよ。部活、なにはいんの?高校一緒だし、部活も一緒にやりたい」
いっつも聞いているのに、こいつはいつも笑ってはぐらかす。こっちはずっと一緒にいたいのに、こいつはそうじゃないのか?
「もう、、はぐらかさないでよ。いっつも大事なとこはぐらかして。」
困り笑い。言いたいけど言えない、そんな理由でもあるのだろうか。でも、こいつのことだからきっと、運動部に入って、めっちゃモテて、そんな生活なんだろうな。
「そんでさ、今日は、朝ちょっと遅れたんだけど、先生って本当に話長くて。。。」
キーンコーンカーン
あぁ、今日の昼休みは終わりだ。チャイムがなるとともにこいつはいなくなってしまう。
「また明日。昼休みにここで」
そんな言葉を虚空にはいて、屋上をあとにする。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ねぇ、なんであの人何も喋らないの?いっつも昼休みいなくなるし。」
「え、知らないの!?あの人、目の前で親友が自殺したんだよ。」
「自殺。。?」
「そう、自殺。いじめにあってて、屋上であの人の目の前で飛び降りたらしいの。だから近づいたり変な気を使っちゃダメ。それに、死んだあと、あの人、笑ってたらしいよ」
「えぇ、何それ怖い」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そのまま空気みたいに教室で過ごし、寝て、起きて、昼休み、またここに来る。
ガチャ
少し重い屋上の扉を開ける。外の温度が冷たいのはドアノブにも伝わっていた。
「おはよう。こんにちはかな。。。。。。ねぇ、いるんでしょ?」
返事がない。こんなの初めてだ。まだ、何も言えてない。
「ねえ。変ないたずらしてないで出てこいよ。」
どれだけ声をかけても、誰かが来る気配はない。いや、最初から誰もいない。
「なぁ。どこいったんだよ。なぁってば、答えろよ」
ボロボロと涙がこぼれる。この涙はいつからこんな星になったんだろうか。なんで、検査入院なんてしていたのだろうか。一つずつ、記憶のかけらがつながっていく。かつての後悔、恐怖、無力さ、すべてがこみあがってくる。
「そう、だよな、、、おまえ、ここから飛ぼうとしてたんだっけ。」
ふつふつ、と。昨日までそこにいたはずのお前の存在が嘘だったことが記憶に染付き始める。いやだ。。。。いやだ。。。。
あの日、いつもみたいにお前とバカ話しようとした。あの日、お前がいつもみたいに笑ってちょっと文句言いながらも一緒に過ごす、そんなはずだったのに。お前は泣いていたんだ。”クラスの奴らにいじめられてる”そんな素振りなかったのに。いや、気づけなかった。僕が気づいていれば、話を聞けていれば、お前は空を飛ぼうなんてしなかったかな。後悔ばかりが頭から離れなくて、夜も眠れなくなった。飛ぶ直前にお前が言ったことが頭から離れない。あのとき、お前に言われた返事をしなくちゃな。
満天の星のように輝く大粒の涙を流しながら、虚空の空を屋上から見つめ、僕は君に言った
「 」