残酷なBLOODDOLL
食愛病をモチーフに書きました!
一部残酷な描写があります。
冷たい感覚が首筋をなぞって体中にいきわたる。血を吸われるって変な感じだ。
これが”恋”ってやつなのか。死がすぐそばにあるのにこんなにも愛おしい。
僕の血で赤く染まっていく君を見ているとどうにかなってしまいそうだ。
血で染まった、彼岸花のような君に、僕は恋をしていた。
この世界は夜と昼で別世界だ。昼は人間が過ごす太陽の国。夜は人間じゃないとされる、DOLLの国と化す。僕ら人間は決して夜に出歩いてはならない。これは、世界の定めであるらしい。歴史上ではかつての人間は夜も出歩くことができた。父さんは毎日のように夜の話をきかせにきてくれた。どうも「夜」ってのは空に太陽だけじゃなく、小さい石ころみたいな物があってキラキラ輝いているらしい。その時はDOLLなんて存在していなかったそうだ。僕はずっと、その空に輝く石、「星」ってのがみてみたかった。夜は暗いけどひときわ大きな石、他の星たちの守り神のような「月」が夜を淡く照らしているのだとか。一緒に見に行こうなんて話をしているうちに時は過ぎ、父さんは病気で死んだ。父さんが生きている間に、何もしてこなかったわけじゃない。ずっとこっそりドアを開けてちらっとみるだけでいいから、なんていって夜中に一人で抜け出してみようとしたりした。だけど、その時は決まって父さんに止められた。DOLLはそんなにも怖いものなのだろうか。いつからかDOLLを怖がっている父さんにも嫌気が差して、一緒に行こうなんて言わなくなっていたんだ。だけど、父さんが死んで、後悔だけが残った。一度でいいから一緒に見たかった。なんで諦めたんだ。そんな後悔ばかりが僕の脳内を蝕んでいく。せめてもの罪滅ぼし、なんて言って、結局は僕の自己満足のために策をねった。夜の空を見に行くために。
ついに今日が決行日だ。聞いた話では、今日が一番月が輝く日らしい。父さんの写真を持って、武器を持って、フードを被ってDOLLに紛れて、空を見て帰る。簡単じゃないか。そう言い聞かせながら「ふぅ」と息を吐いて、ドアに手をかけ、開ける。
ガチャ
どういうことだよ。夜、あんなに父さんが恐れていたDOLLは人間だった。いや、人間との違いなんて全く解らなかった。一瞬気が抜けたものの、気を取り直して警戒態勢に戻る。フードを深く被って、昼のうちに見つけた、空が一番よく見渡せる場所へと向かう。周りを見渡しながら、昼とさして変わらない道を歩き到着してほっと息を吐く。楽勝じゃないか。父さんはなんであんなに恐れていたのだろうか。そう思いながらDOLLがいないことを確認してフードを外す。フードを外したことで、今まで見えていなかった夜空が僕の一面に広がる。____息を呑んだ。昼とは全く違う空。星が一面に散りばめられていて、一つ一つが輝く。その中心にいるのが月だ。大きくて、やや黄みがかっている。みたこともない景色に言葉が出てこない。なんでもっと早く、父さんと外に出なかったのだろう。世界の定めだろうがなんだろうがどうってことないじゃないか。思わず、涙が流れた。父さんとみたかったなぁ。ねぇ父さん、写真だけどさ、見えてるかな。それとも、勝手に決まりを破ってここに来たことに怒ってるかな。わかんないけど。ごめん。ただそれ以外に言葉が見つからなかった。
小一時間経った頃、そろそろ家に戻ることにした。長居していては何が起こるかわからない。ふと体を起こすと、誰か、いた。ここに僕以外の昼の人間がいるはずがない、つまり、DOLLだ。急いでフードを被って黙って横を通り過ぎようとする。が、体が動かない。解らない。何が起こっているんだ。やばい、どうしよう、どうしたら。
「ねぇ。君、昼の人間だよね。どうしてここにいるの。逃げないで、教えてよ。」
人間の言葉、はなせるんだ。ここはもう、正直に言うしかない。。。
「とっ、父さんに夜の空の話を聞いて、その、ずっと、夢だったんだ。父さんとこの空を見るのが。だけど、でも、父さんがだめだって、それで、見れなくて、父さんが死んで、一緒に来れなくなって、ずっと、後悔してて、今日が一番月が綺麗だって聞いて、来たんだ。」
もう、死ぬのかな、どうなるんだろ、でも、ここに来れてよかったな、父さんを連れてこられて。これでしんだら、あっちで父さんに謝って、感想を言い合うんだ。それで、それで、
「へぇ、嘘じゃないみたいだね。まぁでも、定めを破ってまでの願いか、まぁ、いいや。ねぇ、見逃してあげるから、明日もここに来てよ。今度は手ぶらで。」
「え、、、な、なんで、、、?」
「まぁ拒否権はないよ。定めを破ったものにはこっちの幸せに付き合ってもらうルールが作られているんだ。君、僕の好みだし、約束。来なかったら、世界中が君を探すことになる」
「わ、わかり、、、ました。えっと、その、ごめんなさい。」
「いやいや、謝らないでよ。明日来てくれたらいいから。帰りも気をつけるんだよ。」
これ以上なにかされる前に早く帰ろう。明日、どうなるんだろう。いや、プラスに捉えるんだ。あの空の下で死ねば、また父さんに話すことが増えるんだ。もう、後悔はないんだ。
あのDOLLのことがあってから、なかなか眠ることができなかった。夜の空をみたからどっちにしろ眠れなかっただろうけど。そうしてぐるぐるどうしようか考えているうちに、夜がきた。仕方ない、せめて痛くないようにしてほしいって言おう。そう思いながら、昨日のパーカー姿でDOLLのもとへ向かう。
「ちゃんと来たね。偉いな。まぁ、どっちにしろ来るしかないだろうけど。待ってたよ。」
「え、と、その、痛くないように、せめて人思いに殺してください。後悔はないです。」
「んー?何言ってるの?ちっとも痛くなんてないよ。だって君は私に恋をするんだから。」
「え?」
えっと、恋に落ちる?このDOLLに?なんで?父さんが恐れていたのはこれ?
「つまりは、私に君は恋に落ちる。そうすることで痛みを伴うことはなく、君は死ぬ。まぁ、定めを破ったからには死ぬんだろうけど、どっちがいい?私に恋に落ちて死ぬか激痛を伴って苦しみながら死ぬか。」
僕は断じて、苦しんで死にたいわけではない。だけど、恋に落ちるってなんだ?全部二択でほぼ選択肢なんてあってないようなものじゃないか。でも、それなら。
「あなたに恋に、落ちるってどうすればいいんですか。」
「簡単だよ。私に身を委ねるんだよ。」
そう言ってDOLLは僕に確かめるように触れ、赤い光をまとい始める。これがDOLLの本性ってやつなのだろうか。あぁ、きれいだ。こんな女王教で言うのもおかしいけど。これが愛しいと思うのか。少しずつ、理性が効かなくなっている気がした。段々と赤みを増していくDOLLは吸血鬼に見えた。気のせい、、なんかじゃない。父さんが恐れていたのはこっちの姿のDOLLだったんだな。牙がはっきりとしただんかいで冷たい感覚が首筋をなぞって体中にいきわたる。そしてDOLLは首筋に噛みついた。はは、血を吸われるって変な感じだ。
これが”恋”ってやつなのか。死がすぐそばにあるのにこんなにも愛おしい。僕の血で赤く染まっていく君を見ているとどうにかなってしまいそうだ。血で染まった、彼岸花のような君に、僕は恋をしていた。父さんに会える喜びと快楽と愛情で気が狂いそうだ。恋をした。
血色のない君が、静かに横たわる。あぁ、好き。好き。好き。真っ赤なあなたの血に染まれた。嬉しぃ。ねぇ、血だけじゃ足りない。全然足りない。もっと、もっと、あなたを。
バギっ、グチャ
不快な音が夜の空の下に響く。あたりは血に染まり、夢を見た少年の体がいびつな方向にまがり、つながっているのかすらも怪しい。その体を感じながら満面の笑みのDOLLは言う。
「 」
赤色のDOLLの恋はいかがでしたか?




