金曜日の楽しみ
ZERO館タピオカ部。
異世界の旅への参加者を募るもまったく相手にされず。
「えー? 最低! 嘘? 冗談でしょう? 」
「先生と二人っきりで旅行は勘弁してよ! 」
「もう嫌! ミホ先生あんな奴放っておこう」
罵詈雑言が飛んでくる始末。
ここまで言わなくてもいいのに。先生悲しいよ。
「まあまあ落ち着いて皆。青井先生は熱心なだけですから」
事情をよく知るミホ先生が庇う。
「ダメだって。この人変態なんだから」
「おい言い掛かりはよせ! 」
「だって先生罵られるの好きでしょう? 」
また美人三姉妹の二人が俺の恥ずかしい秘密を暴露する。
俺にはそんな趣味はない。ただあいつらに乗せられてつい。
やはり無駄か。
ここには異世界探索部の為に一肌脱ごうと言う心優しい者はいないらしい。
相当嫌われてるな俺。ただの顧問とは言えスケルトンから引き継いだ恩人のはず。
それなのに。それなのに。
これも美人三姉妹の二人があることないこと吹き込むから。
迷惑を被るのはいつも俺。
逆らえない立場の俺を陥れ楽しんでいる悪趣味な二人。
注意できないと調子に乗りどんどんエスカレートして行く。
付き合わされるこちらの身にもなって欲しい。
もうこの際だから誰でも良い。
でも明らかに美人三姉妹二人は除外だよな。
本当にもったいないが選べない。
どうしてこうも消極的なのかと言えば時期が悪いの一点に尽きる。
丁度合宿はお盆。日本全国で帰省による一斉移動が始まる。
その近辺で合宿を行えば部員の中にも参加できない者も出てくる。
ただ部員は僅か三名だから今のところその辺の問題は解消済み。
仮に被っても当然合宿の方を優先するだろう。
何と言っても部長を中心に積極的だからな。
それに反してタピオカ部は台湾旅行から帰って来て疲れてる頃。
これが逆なら行く者だっていただろうがやはり時期が悪すぎる。
覚悟はしていたよ。ただ掛け持ちをしてる関係でスケジュールがぎっちり。
今回成功させられれば自信もつく。
どうした。俺と行きたい者は本当にいないのか?
それとも恥ずかしがって手を挙げられないとか?
うーん。早くして欲しいな。これでは何も決まらない。
「お願い。誰かいませんか? 」
「ミホ先生がそうおっしゃるなら参加してもいいかな」
責任感の強い部長が手を挙げる。
何だかんだ言って俺と旅行がしたかったりして?
ははは…… まさかな。ある訳ないよな。
「部長が参加してくれれば百人力だ。他の者はどうだ?
異世界探しを楽しんでみないか? 後悔することになるぞ」
そうやって火を着ければ誰かきっと現れる。
もちろん異世界探しに参加した方が後悔するだろうが。
「特に難しいことはない。ただ参加してくれればいいんだ」
少々強引に誘う。
「だから興味ないって! 」
その後も粘ったが誰も乗り気でない。積極的に参加したい者などいないのだろう。
無理もないことだ。
「よし分かった。ここで締め切る。だが当日に緊急参戦するのは構わない。
もちろん四泊五日分程度の着替え。それと必要なものはその紙に書いてあるから。
希望者は目を通しておくように」
一応はタピオカ部にも誘いを掛けた。
希望者は今のところ部長のみ。
まだ時間はある。ゆっくり時間を掛けて説得して行けばいいさ。
金曜日。
「待っていたよ。へへへ…… 」
今日は週に一回のお楽しみ会。思いっ切り羽目を外す。
「先生ったらもう! 」
怒る振りだけはする長女。だがもちろん本気ではない。それくらい分かってるさ。
「今日は絶対に寝かせないからな! 」
積極的に行く。これで嫌われる場合もある。
「あれ先生…… 英語の補習はどうしたんです? 」
一応は補習で集まっている。
「そんなもの…… 焦らすなよ。分かってるくせに」
「もう先生ったら」
笑い合う。
「よし始めるぞ! 準備はいいな? 」
「ハーイ」
さあさっそく始めるとしようか。
週一回の密かなお楽しみ。
絶対に誰にも気づかれてはいけない秘密の課外授業。大問題になってしまう。
寝不足の原因がこれ。
俺は教師だと言うのに我慢できずにおかしなお遊びに興じる。
情けなくて情けなくて泣けてくる。
そして本当にこんなことを続けていていいのか?
俺には使命があるのではないかと自問自答する毎日。
だがもちろん答えが出るはずがない。
当然そう言う考え方もあるだろう。
だが今はあまり深く考えたくないのだ。
そうして頭がこんがらがってるうちにいつの間にか眠りについてる。
それが五分の時もあれば一時間以上の時もある。
辛くて辛くて悲鳴を上げるが防音装置があるので聞こえることはない。
やはり多少の罪悪感があるのだろう。
完全に克服出来たと思ったのに。
まだ理想の教師像を追い求めてるのかもしれない。
ミホ先生はその傾向にある。
融通の利かない正義感で断罪しようとする。
俺もいつの日か断罪される時が来るのだろうか?
続く