君の名は?
まったくアークニンの奴め俺に恥を掻かせるとは。
生徒が見てる前だと言うのに自分だけ格好つけて。
何が一時間待ってやるだよ。ふざけるのも大概にしろ。
アークニンによって一時間の猶予が与えられた。
俺はケチな訳ではなく無駄を省きたいだけ。決してセコイ人間ではない。
「青井先生どうします? 」
生徒だけでなくミホ先生まで……
頼られるのは嬉しいが俺に全責任が。これはとんでもないプレッシャー。
もうこの際何も気にせずに買えばいいさ。
「ミホ先生が購入すると言うのも手かと。どうですか? 」
うわ…… つい間をとって馬鹿な提案してしまった。これは失望させたかな?
「申し訳ありません。現金は持ち歩かない主義でして。
カードでしたら…… やっぱりダメですよね? 」
俺に聞かれても…… 館長にでも聞いてくれ。
彼女は彼女なりに肩身の狭い思いをしていたのだろう。
だったら少しは現金を用意してよね。
こんな山奥の田舎ではカードなど聞くだけ無駄だろう。もう諦めて俺が……
その前に言い訳と注意。
「いいかお前たち。俺はセコくも金に汚くもない。
これも言ってしまえば交渉術だ。異世界探索ではあらゆる場所へ赴くことになる。
それこそ異世界にだって。だから今からそれに慣れるようにしておけ。
一流の交渉術を身につけるのも異世界探索には必要なことだ。
それからミホ先生もですが現金はなるべく持ち歩くように。
地方に行けばカードは使えない。仮に使えてもトラブルになるだけ」
異世界探索部としての最低限心がけるべきことを伝授。
「そしてお金以上に大事なのが現物だ。安パイって奴だな。
いえいえミホ先生のではありません。構えないで。
例えばチョコ。栄養は高いが保存が難しい。熱に弱く溶けやすい。
一番良いのは金だろう。持ってて損はない。ただし無理はするな。
交渉には酒とたばこが一番。これも無理をするな。お前たちはまだ子供だからな。
海外に行ったらドルが良いぞ。エンでは足元を見られる」
今回のアークニンのがめつさがいい勉強になったはずだ。
「それで青井先生どうしましょう? 」
「うーん。買ってみるかな。でもな…… 」
「先生あの…… 」
「ああすぐに戻るんだぞ」
生徒たちは付き合いきれないそう。自由行動を許可する。
さすがにアークニンっだって多少は名の知れた学者。
無茶はしないだろう。危険はないさ。
生徒たちは博物館見学を続行することに。
博物館には大小の展示物があり死角ができやすい。
「あれはすごいぞ! 」
「待って! 」
異世界に関する貴重な資料がたくさん。
興奮した三人はすぐにバラバラになってしまう。
「君…… ちょっといいかい? 」
生徒たちから目を離した隙を突きアークニンがついに動く。
狙いは意外にも平凡な生徒。
集団行動を守れずにターゲットが一人になったところをアークニンが誘う。
面白いものがあるからついておいでと手招き。
本来であれば知らないおじさんについて行くのは絶対にダメ。
特にアークニンのような危険人物にはついて行ってはいけない。
もう子供ではないから分かってるだろうが。
しかし高名な博士の肩書が警戒心を薄れさせる。
「おいでおいでこっちだよ。話をしよう」
二階に連れて行かれ完全に監視の目から外れてしまう。
その間も他の生徒は未知の発見に興奮。
異変に誰一人気づいてない。それは教師たちも同じ。
勝手に大丈夫と決めつけて適当に様子を見ている。
二階も貴重な展示物がズラッと。
「何でしょうか博士? 」
「君の名は? 」
「カズトって言います」
一度自己紹介をしてるがもう一度。
「そうそう。カズト君って言ったね。私は高名な博士だ。
私ぐらいになると心の中が分かってしまうんだ。
君には他の人とは違う別の目的があるね? そう崇高な目的が。
そう見えて仕方がないんだが。違うかい? 」
人間の暗い部分を突くのが得意な博士。
たかが高校生では逃れられはしない。
「そんなことある訳が…… 」
思い当たる節があるようで焦り始める。
「いいんだよそれで。君の思うままに。己を解放するといい。
欲望のままに行動すればいいんだ。皆そうしてる。
気づかないだけだ。それが人間と言うものだ。否定する方がどうかしてる」
甘言でカズトを意のままに操ろうとする。
もはや人間の心を失ったアークニン博士。
一体博士の狙いとは?
続く