異世界幻想
暗雲立ち込める社会科見学。
お食事を終え楽しい博士のお話が始まったと思えばとんでもないことを言い出す。
ダメだ! それ以上耳を傾けてはいけない。これ以上は引き返せなくなるぞ!
生徒たちを魅惑的な異世界へ誘うアークニン。もはや黙っていられない。
「生徒たちに何てことを! 」
「うるさい! 信じぬ者は救われぬぞ! 」
「ははは…… 本性を現しやがったなアークニン! この詐欺師め! 」
「先生! 青井先生! 抑えてください。生徒たちの為に我慢してください」
ミホ先生に言われどうにか我に返る。
そうだった…… 奴が本気になれば生徒たちに危害を加えることもあり得る。
ここは冷静に冷静に…… 出来るか!
「アークニン。あんたはさっきこう質問しただろう? 処女かどうか? 」
もう奴の本性を暴くしかない。そうすれば生徒たちだって目を覚ますだろう。
「ああそう言った」
あっさり認める。これはどう言うことだ? 恥も外聞もないのか?
「皆聞いてくれ。我々は異世界を探索する同志である。
だから大切なことはすべて包み隠さず君たちに伝えておきたい」
ついに異世界講座が始まってしまった。
俺が止めようとしても無駄。もう夢中で耳を傾けている。
やはりアークニンを紹介するべきではなかった。
危険過ぎたと言うのに俺はつい手掛かりをと第一人者をと。
甘かった。もうダメだ。俺の力では彼らを引き戻せない。
「いいかね君たち。異世界はそんな甘いものじゃない。
理想郷や楽園をイメージしてるかもしれないがそれは大きな間違いだ。
えらく恐ろしく寒々としたところだ。
憧れるのは構わないが現実を見て欲しい。
それでも目指すと言うなら私は協力を惜しまない。まずそれが一つ。
それから異世界へのアクセス方法だ」
熱く語る自称異世界研究の第一人者。
どこまでが本当でどこまでが奴の妄想か皆目見当がつかない。
とは言え一度火のついた者を遮ることは不可能。
アークニンを黙らせたところで生徒たちは続きを聞かず大人しく帰るはずもない。
もはやアークニンから現実を突きつけられ目を覚ますしかない。
奴が下手を打って異世界幻想から解き放たれればあるいは……
そうなったら異世界探索部は終わり。廃部に。
俺はスケルトンからタピオカ部と共に引き継いだ。
彼らを正しい方向に導くのが顧問である俺の役目。
その上で異世界探索部が廃部になったとしてもそれはそれで構わない。
だが出来るならそんな残酷なことしたくない。
「いいか。異世界に行くにはあらゆる偶然が重なる必要がある。
その偶然も研究してみれば法則があると言うものだ。要するに必然だ。
まず最初に何をする? はいそこの君! 」
「ええ…… 僕ですか? 」
部長ほど興奮しておらずミコほどイカレテもいないごく普通の男の子。
そんな彼も俺が顧問になったことで少しづつ変わっていった。
もう部長にも劣らないほどの熱中度合。
我が異世界探索部は皆異世界に呑み込まれようとしている。
それは今日のような社会科見学でもっと強固なものになっていく。
良いような悪いような。
異世界探索部としては歓迎すべきだろうがもう戻れないところまで来ている。
そんな感覚がある。そして極めつけはこれと言う訳だ。
「ほら早く答えぬか! 」
「文献を漁り専門家に話を聞く」
「それは当然として並行して何をすべきかだ? 」
厳しい博士。この子はまだ高校生なんだぞ? しかもまだマシな方。
「分かりません! 」
「最近の若い奴はすぐそれだ! 黙っていたら答えが降ってくると思ってやがる。
いいか。まずは仲間集め。異世界探索隊を結成するのだ。
出来ればあらゆる専門家を連れて行ければベストだがそれは夢物語。
この男もおそらくこれくらいのことは語っただろう」
異世界研究の心得を熱く語る博士。指導する俺まで測る気らしい。
「博士続きをどうぞ」
脱線しかけたので部長が先を促す。
「うむ。まずは探索隊を作るな。その中に若者、少年がいることが大切だ。
異世界を見つけるには純粋な心を持った者が必要だ。
どうやらユーたち二人はその条件に当てはまりそうだな」
舐め回すような博士。これは試してる? それともお気に入りを探してるのか?
条件に合うとは? ただ子供であればいいと言うだけではないのか?
そんな話は初めて聞いたぞ。アークニンめ。何を企んでやがる?
本当に油断ならない野郎だ。
異世界幻想から解放され完全に正気に戻ったら言い聞かさなければな。
続く