スイーツ開発
通常タピオカ販売は月一回第四土曜日と決まっている。
しかし七月は夏休みに入るのでお店の人に無理を言って早めてもらっている。
そもそも台湾旅行とも重なってるからな。
ちなみに八月は販売はなし。
これは店の都合もあるが無理させない為でもある。
特に俺が疲れてしまわないように。
夏は販売よりも飲み比べを優先する。
本当はこの時期は書き入れ時なんだけどな。
百杯完売!
六月も百杯完売を目標に作ったが思いのほか客足が鈍く届かなかった。
百杯達成した時にはつい二百杯、三百杯だと調子に乗ったが現実はこんなもの。
足元をしっかり見て原因究明すべきだろうな。
原因は複数考えられるが原料高と急激な物価高騰によるものだと推測される。
部長の分析ではブームが下火になって他に移ったと。だとすれば寂しいこと。
事実ならばこれは由々しき事態。タピオカ部存続の危機。
店の人に直接聞くのもありだがこれも勉強であり部活動。
簡単に答えが分かってはいけない。
それにお店は大打撃な訳でこれ以上迷惑は掛けられない。
タピオカだって新商品開発だと意気込むが実際は商品を提案してるだけ。
出来上がったものをお店で販売させてもらっている。
お店におんぶにだっこ状態。
高校の部活動だからなこんなものだろう。
今まで応援してくれた素敵なお客様がリピートしてくれることを願うとしよう。
とにかく今は原因究明だ。
届かなかった原因の一つに新鮮味が挙げられる。
だから今月は視点を変えて甘くないタピオカドリンクに取り組んでいる。
もちろんそれだけではおじさま方しか反応しないのでスイーツ開発に余念がない。
甘さ抑えめ大人タピオカドリンクとスイーツのセットで目標の百杯完売を目指す。
念のため五十杯余裕を持たせる。
販売に時間も金も余計にかかるがこれも百杯完売には必要なこと。
バンバン出すしかない。
出来ればパトロンでもいてくれると助かるが…… そうかミホ先生がいたな。
実家はそれは裕福だろうしタピオカ部にもお嬢様は何人もいるだろうから。
最悪それを当てにすればいいか。
「先生。五十杯余計は多いのでは? 」
未だに納得してない部長。慎重とも言える。
「だから言ったろ? 単品で買う場合を想定してだ。しかもスイーツのみも。
売れ行きが良ければ百五十杯完売だって夢じゃない」
「そう言いますけど先生…… 」
「不安になる気持ちは理解してる。だが先月のような失敗を繰り返すつもりか?
先月の惨敗の反省を一つも活かせないでいいのか? 」
「そうですが…… 余ったらどうするんです? 」
マイナス思考だな。部長がこれではタピオカ部が沈んでしまう。
「その時はその時だ! 強気で行こう。皆で手分けして処理すれば問題ないさ」
「でも…… 」
「百五十杯丸々だと無理だが半分ならどうだ? マイナスのこと考えなくていい。
百杯売り上げることだけを考えればいいさ」
あと三日に迫る運命の日。
百五十杯完売すれば自信もつき店からも見直されるだろう。
俺には勝算がある。
夏本番になればドリンクは飛ぶように売れるはずだ。
タピオカも間違いなく。そこにスイーツが加われば完璧さ。
何としてもスケルトンから引き継いだこのタピオカ部を守っていきたい。
しかし皆で帰るなんていつ以来だ?
部活が終わったら部長に後を任せとっと先に帰っていた。
今ミホ先生が生徒を引き連れ帰ってるがどう言う気分だろう?
結局タピオカ部でも異世界探索部でもサマー部でもこんなことは一度もなかった。
俺人望がないから。待ってくれる生徒なんていても部長ぐらい。
情けなくて虚しい。ああ現実を実感して気が狂いそうだ。
それに比べて楽しそうに引き連れてるミホ先生。
俺が男だからな仕方がないのだがまとわりついてくるのは美人三姉妹だけ。
しかも上二人。三女は距離を取り出した。
贅沢だって分かってるけど他の子も懐いて欲しいのよね。
しかも二人だって金曜と土曜ぐらいなもの。他の日は人が変わったように冷たい。
本来なら良い子だと褒めたいがあれだけどす黒いとそうも言ってられない。
いつ裏切るとも限らないのだ。今のところギリギリのバランスで保ってるが。
「ふふふ…… 青井先生早く! 」
後ろをトロトロしてるものだから気にかけてくれる。
どうやら顧問の仕事にも慣れてきたようで部員の扱いも上手い。
単にあしらわれてる気もするがそれはそれ。
俺と違って慕われてる。
やはり女性同士の方が良いのかもしれないな。
副顧問を任せて良かったと思う。
ミホ先生には土曜日まで付きっ切りで頑張ってもらいたい。
タピオカ部の為にも。
ただ…… 副顧問になったばかりに巻き込まれる運命。
そんな絶望的な未来が待っている。
続く