特別な感情
副部長の制服は隣室のロッカーの中と分かった。
後は制服を取り出したらすべて解決…… とはいかないのが現状。
一緒にあったはずの下着が見当たらないのだ。
果たしてどこに消えてしまったのか?
「先生にもう一度調べられたら終わりなのでそれだけはと願っていました」
さすがに隣のロッカーまでまた確認しないだろうな。
うまいところを突いて来るなこの子は。
そもそも内部犯とは思えなかった。
もうとっくに持ち出されているものだとばかり。
内部犯とはどうしても思えないが外部犯の線もやはり薄い。
結局事件は迷宮入りしてそのまま。
良いか悪いかは別としてこれが現実的だろう。
「この後どうするつもりだったんだ? 」
無計画な上に杜撰な隠し方。疑われたらお終い。
顔面蒼白で動揺すればするほどドツボに嵌るパターン。
もう少し演技を学び自然体で臨めたら。
怪しすぎて明らかに自分が犯人だと名乗り出てるようなもの。
「何も考えていませんでした。明日は日曜なので月曜の朝までにどうにか。
後で落としものとして届けようかなと」
まさか自ら届けるつもりか? それでは疑われるだけではないか?
だからと言って勝手にその辺の道端に放置しておくのも不自然。
何と言っても現役女子高生の制服。しかも使用済みであれば黙ってはいない。
マニアの間では高値がつくこと間違いなしの垂涎もの。
本人の手元に戻ることは一生ないだろう。
当然部室は論外。
「そうか分かったよ。さっそく君の案を採用しよう。
ロッカーから取り出し月曜日にでも。
落としものコーナーにあったと言えば誰も疑いやしないさ」
これも不器用な生徒の尻拭いだと思えばなんてことはない。
一件落着だ。
「先生…… 」
「最後に一つ。これは答えても答えなくてもいい。プライベートなことだからな。
君は本当に副部長の制服のほつれが気になったのか?
だとしてどうしてそこまで気になったんだ?
偶然か? それならいい。だが副部長へ特別な感情があったなんてことは?
憧れがありそれがどんどん膨らんでいった? 」
今後のタピオカ部のこともある。
副部長に対してどこまでの感情があるのか把握しておく必要がある。
「それは…… 」
黙ってしまった。言いたくない気持ちも分かる。だから答えなくていい。
そうは思ってるものの追及の手を緩められない。これも教師の性って奴だろうか?
「下着だって女の子同士だから相手も盗られたとは思わないだろう。
ただ一般的には疚しい気持ちが君にはあったと考えるのが普通」
「先生私…… 」
「いやいいんだ。無理して答える必要はない。
副部長は見た目も性格もあれだから君みたいな感情抱く者は多いのではないか?」
「先生ありがとう! お気遣い感謝します」
やっぱりそう言うことか。
ここが元女子高だった名残なのかもな。
勝手な想像だが名家のお嬢様で将来の相手も決められてる子も多いのではないか。
そこで高校までに遊んでしまおうと暴走気味に行動する子が多いと聞いた。
相手は当然学校の中だから必然的に女となる。
その伝統が今も密かに受け継がれている。
ここは旧校舎ZERO館。その当時の記憶が染みついている。
「話は以上! ご苦労だったな。もう戻っていいぞ。後始末は俺がつける」
「ありがとうございます」
一礼して出て行く。
さあようやく一人きりになったことだしもう一つの心配ごとを片付けるとしよう。
ポケットを探るとやはりあった。ポケットインしたからな。
これは美人三姉妹の長女からの預かりもの。
危うく教師生命が終わるようなブツを処分出来ずにいる。
いや意外と難しいんだよな。勝手に捨てれば逆鱗に触れる。
そうなると金曜日のお楽しみまでお預けを喰らうかもしれない。
これは間違いなく長女のだよな? 副部長のじゃないよな?
感触は間違いない。二枚きちんとある。
うん大丈夫。これは間違いなく長女の私物で間違いない。
突然のノック音。
「何やってるんですか青井先生? 」
これはまずい。ミホ先生に見られた?
ノックするのは良い。だが許可も得ずに勝手に入って来てはマナー違反では?
俺も人のこと言えないが。ここはしっかり注意すべきだろうか?
「いやその…… これは……
ダメだ言葉にならない。見られたらそこでお終い。言い訳など通用しない。
「もうしっかりしてくださいね青井先生」
この様子だと不審には思ったが決定的な場面は目撃しなかったな。
ギリギリセーフ。どうにか隠せたらしいらしい。
「ハアハア…… それで何か? 」
大量の汗を掻き迫る。これでは怪しまれても仕方がない。
冷静に演技しようにも息苦しく不可能。
やはり人間追い詰められると冷静な判断がつかない。
「はい副部長がお話があるそうです。私も同席しましょうか? 」
「いえ大丈夫です。ミホ先生は他の生徒を見ていてください」
ミホ先生に入れ替わる形で副部長が部屋に。
続く