白日の下に
<同伴者>
もう戻れないところまで来てしまった。
俺は少女たちの巧妙な企みによって堕ちるところまで堕ちてしまった。
だが他の堕落者に比べれば俺の方が恵まれている。
俺は望むべくして堕ちたのだから。
金曜日の夜を楽しんで朝に一緒に登校。または現地へ。
月に一度のタピオカ販売。現地集合だから何の違和感もない。
「あれ先生たち一緒なんだ? 」
「ああ偶然会ってね。懐かれて仕方がないよ。ははは…… 」
当然強がりであり言い訳でしかない。ただ関係を知らなければ流してしまう。
巧妙な手口…… ってのも変か。
二人の女の子を同伴しての出勤。
悪くない。いや最高だ。
こうやって三人だけの秘密を共有する。
あの運命の日も三人で駅まで一緒に。送ってもらった。
俺が逃げないように引っ張って行って……
まさかあんなことになるとはな。
この中でばれてまずいのは教師である俺だ。
それは間違いない。だが俺は元々大学で教鞭を執っていた訳で。
英語教師の職を失ったとしても痛くもかゆくもない。
どうせ数年で復帰するのだから。もちろん公にならないことが前提ではあるが。
当然保護者が問題にすれば影響も受けるだろう。
ただ学校側としてはもみ消しに走るに違いない。
教師の不祥事は学校のイメージを著しく損ねる行為。
それが生徒とのスキャンダルなら致命傷だ。
学園運営に支障をきたす。
だから動かない。動けない。
内密に処理するにしても俺の存在が邪魔になるだろう。
沈黙を条件にある程度の見返りを得る。
そうして俺は晴れて元の鞘へ収まる。
それに比べて二人は停学は確実。最悪退学。
俺の証言を学校側が受け入れてくれれば俺は救われる。
受け入れなくても共倒れ。
誰一人として助からない。すべて俺のせいだとしても一番ダメージが少ない。
もちろんそんな思惑があって生徒に手を出したことはない。
ただ彼女たちのお遊びに嵌められたのだから。
何と言われようと被害者でしかない。その立場は揺るぎない。
今の俺は彼女たちにコントロールされてるに過ぎないのだ。
ああ早く金曜日にならないか。
それだけが楽しみで生きている毎日。
夕方ZERO館にて。
廊下を歩く足音が聞こえる。
徐々に近づいてくる足音。
一定の感覚を保ってこちらへ向かってくる。
来る! 来る!
緊張が走る。
扉を乱暴に開ける音がZERO館に響き渡る。
どれだけ近所迷惑なのか分からないはずはないのに。
それでも加減する気配はない。
もちろんお隣は遠く離れた本館のみで近所に建物など一切ない。
こちらの音が届くこともないしあちらの音が漏れ聞こえることもない。
閉ざされた世界。事実立ち入る生徒は部活動を除けば皆無である。
教師でさえも気持ち悪くて近づかないのだ。
特に夕方。暗くなればその不気味さは際立ち尻込みするばかり。
ZERO館も実は愛称でその意味もあるらしいのだが詳細は不明。
真実を知れば震えが止まらなくなるだろう。
衝撃音が響き渡る。
まさかストレス発散の一環?
音が収まると一気に静寂に包まれる。
男が幽霊のようにぼうっと立っていた。
気づいたか気づいてないかのタイミングで悲鳴が上がる。
男は怯むが構わずにそれでも中へ。
悲鳴と混乱が続く中勇気ある少女が前に出る。
「先生着替え中です! 早く出て行ってください! もう早く! 」
真面目に注意を受ける場合もあればふざけて流す時もある。
物を投げてくる場合が多いかな。エスカレートすると何してくるか分からない。
特にいつも大人しい子は要注意だ。人が変わったように執拗に攻撃を加える。
「悪い! 悪い! 」
もう何度繰り返したことか。この程度では俺も生徒たちも動揺しない。
慣れてしまった。おかしいことでありもう狂ってしまってるのは否めない。
だが悪いと一言では済ませられない。なぜなら今日はお客がいるのだから。
恐らく先に来ているであろうミホ先生。
まさかいつもの醜態をさらす訳にもいかない。
俺はスタイルを変えるつもりは一切ない。
悪いのは俺ではなくここでいつも着替えてる彼女たちの方なのだ。
更衣室使えよな。俺だって着替えは更衣室を利用してるんだからさ。
「先生…… 青井先生! 」
タピオカ部の洗礼を受けたミホ先生の怒りは凄まじいもの。
どうやら後ろから遅れて来たらしい。
そして最悪のタイミングで入ってくる。
「ハハハ…… 」
ダメだ。まったく言い訳が思いつかないや。
「青井先生! 」
「あれミホ先生じゃないですか。いつの間に? 」
もう気がつかなかった振りをするしかない。
いくら白々しくてもごまかす。
続く