距離感
<ZERO館>
コツコツ
コツコツ
足音を立てる。
ガラガラ
ガラガラ
ドーン!
分かりやすいように勢いをつける。
これでダメならもう打つ手など残されていない。
キャア!
ギャア!
ウギャ!
はしたない声を上げる生徒たち。
分かってるくせに知らない振りをしていたずらを続ける困った奴ら。
まったく何を考えてるのかちっとも理解できない。
ドンドン
パンパン
パチンパチン
バチンバチン
まるで待ってましたと言わんばかりの連続攻撃。
俺が一体何をしたってんだよ?
絶対に俺は悪くない。
何一つ悪いことはしてない。
どうしてこうなる?
毎日扉を開ける時に緊張が走る。
もし待ち構えていたら?
違う世界に繋がっていたら?
そんなつまらない妄想に憑りつかれながら部室へ。
ハアハア
ハアハア
緊張からか息が上がる。
きっと今日は大丈夫のはず。
扉を開ければ心待ちにした生徒たちが目を輝かせ出迎えるはず。
だが期待はいつも裏切られる。
扉の向こうの世界はまるで別世界で俺を受け入れてくれない。
一歩扉の先を進めば非難の嵐。
奇声の波により押し流され近づくことさえ不可能。
それでも無理矢理近づこうものなら罰が下る。
俺だって本当は毎日のように来たくはないんだ。
でも俺がいないと彼女たちに迷惑が掛かる。
それだけはどうしても避けなければならない。
受け入れてくれとまでは言わない。
でも俺をもう少し敬うべきではないのか?
どうせ勝手だと罵られるのがオチ。
だからって抵抗せずにはいられない。
そもそも俺の味方する奴は皆無で。
一対多数では分が悪いなどと嘆いても始まらない。
からかって教師を馬鹿にする遊びを覚えた小悪魔たち。
俺は絶対に抵抗してやる。
彼女たちがふざけた遊びを終わらせるまで。
一回ならまだ偶然だし二回なら運が悪いで済む。
だがこれが毎日の挨拶では俺の神経が持たない。
いや正確にはそこまで追い詰められてはいない。
可愛い小悪魔たちのいつものお遊び。
彼女たちなりのコミュニケーションだろう。余裕だ。大丈夫問題ない。
違ったら俺は教師を辞める。
俺の勘が鈍ったのなら潔く辞めるべきだろう。
一番やってはならないのは迎合すること。
彼女たちに屈して注意を与えなければ増長する。
ただこのお遊びに慣れて彼女たちに迎合するようになったらもうお終い。
彼女たちのオーバーアクションに求められた行動を取れば己を見失う。
そうなったらいつの日か訴えられてこの学び舎を追い出される。
別にそうなったらそうなったで一向に構わないがここが気に入ってるからな。
出来るなら辞める事態だけはどうにか回避しなければならない。
誰か代わりをやってもらうことになるだろうな。
一ヶ月は経ったとは言え早すぎる。
しかも休んでいたものだから実質一週間ってところだ。
ほぼ何もしないで今日を迎えた。
いくら病欠とは言え生徒たちを思えばこれ以上は避けるべき。
決して生徒との距離を読み違えないようにしなければならない。
今日もか……
「暑いな。本当に暑いなあ! 」
足をばたつかせクーラーの温度を下げる。
今何度だろうか?
生徒のいる前では子供っぽく見られるので決して見せないようにしてる。
ただ仲の良い先生との間では遠慮なくさらけ出す。
こうでなくてはやってられない。彼女も許容してると言うか喜んでるみたい。
「本当ですね…… 」
「こう毎日だと参りますね。どうしました? 」
何か言いたそうだが遠慮がちなのでつい自分の話ばかり。
良くないなと思ってる。
「あの…… 栄養足りてませんよ」
俺の弁当箱をのぞき込みおかしなことを言う。
うん? 栄養が足りてないから俺は暑くてイライラすると?
何でもないことで疲れるのは暑さではなく栄養不足?
でもご飯だって魚だって卵焼きにソーセージにレタスもトマトもある。
これで栄養不足?
確かに彼女のお弁当は豪華だ。それでも俺と栄養面では大差ないように見えるが。
彩も美しいので交換したいが。言えない。
「お弁当で補えない分はサプリや栄養ドリンクをお勧めします」
間に合ってます…… とは言えないもんな。
仕方がない話題を変えるとしよう。
続く