秘密の課外授業
副顧問要請。
ミホ先生なら俺頑張れる。
まるで青春真っ盛りのうちの生徒みたいで情けないが。
実際彼女が居てくれたらタピオカ部でも異世界探索部でも楽しくやっていけそう。
ただ行事によっては逆効果にもなるのでそこは慎重に。
スケルトンから引き継いだ資料にはとんでもないものまであった。
俺としてはどうすべきか迷ってる。
もちろん生徒が望むなら俺は口を出さない。
「分かりました。今月中には回答するのでそこまでお待ちください」
この期に及んで迷っている。そこまで嫌なこと?
俺は騙された上にもう一個だから最悪だったが今回は正直に彼女に言った。
「では失礼します」
あれ怒ってる? そんな訳ないよな。
彼女を見送る。
どうも他人行儀と言うかよそよそしいからそう感じるんだよな。
嫌われた? 嫌われたかな? しつこくし過ぎた気もする。
あーあ上手く行くと思ったのに。後悔の念を抱く。
これで二人の関係が疎遠になったらどうする。
やはりギブ&テイクの精神で臨むべきだったか。
彼女の要望を聞いてから頼めばよかった。
でも家柄も立派で容姿端麗で頭脳明晰の彼女に欲しいものなどあるのか?
あってもすぐに買いに行けばいい。
とりあえず次の機会までにリサーチしておこう。
それが二人の良好な関係を築くことになる。
ああいけない。こんなことしてる場合じゃない。
急いでパーティーの準備をしなくては。
夕方六時。
薄暗くなり始めた黄昏時。
マンションには三人の女の子が集まっていた。
やはり集まりが悪いか。
俺は出来たら男の子にも来て欲しかったんだけどな。
当てが外れてせっかくのやる気が薄れる。
1LDKのマンションは学園からは駅一つで徒歩二キロ圏内にある。
今まで遅刻はゼロ。どうにか朝起きられているが遅刻しそうになればタクシーも。
タクシーが拾えなければ自転車を飛ばしどうにかする。
最新作の電動キックボードを試すのも悪くない。
白が基調の建物だが築年数が経過しておりかなり黒ずんできている。
一号棟と二号棟があるのだが今二号棟は修繕中で部分的に立ち入り不可に。
俺の住んでる一号棟も時期を見て工事に入るようだ。
「時間だな。結局お前らだけか」
ため息を吐く。悪い気もするが気にしてない。
「そうですよ先生。さあ始めましょう」
あれだけ呼びかけてるのに来たのはたったの三人。
「俺の活動はなかなか理解されないようだな。もう少し待ってみるか」
「誰も来ませんよ。英語の補習なんて。私たちは人数合わせです。
先生の顔を立ててあげようと駆けつけたんだから」
悪気はないだろうがその言葉が突き刺さる。
俺は英語の教師だがその使い方間違ってるぞ。
軽口を叩く少女たち。
ゲストは何とあの美人三姉妹だ。嬉しいんだけどさ虚しいのよね。
デートならいざ知らず生徒として接するには価値が極端に下がる。
ワガママでこだわりがあってうるさく頭も悪そう。
教えるのは骨が折れる。覚えも悪そう。
これらすべてイメージ。恐らく間違っていないだろう。
本当に英語に興味があるのかさえも疑問だ。
いや疑問も何も絶対ないだろう。
何しに来たんだ? からかいに来たのか?
おっとせっかく来てくれた生徒を悪く言う必要もないか。
「おいお前らどうして制服で来てるんだよ? 」
これでは寄り道してるみたいじゃないか。
俺はさせてないぞ。してくれとも頼んでいない。
止めてくれ! 俺を貶めるのは止めてくれ!
「そっちの方が先生喜ぶでしょう? 」
根拠のない言いがかり。だが的確。痛いところを突いて来る。
嬉しいか嬉しくないかで言ったらもちろん嬉しいに決まっている。
興奮してきたな。ああもう俺どうにかなってしまいそう。
でも毎日見てるんだよな。だから効果は薄い。
「よし始めようか」
「はーい」
やる気があるんだか無いんだか。
ホワイトボードに書いて行く。
「では挨拶から。グッモーニン」
「グッドモーニング」
「おいおいそんなに伸ばすなよな。
それにグッドモーニングじゃなくてグッモーニンだ。はいもう一度」
「グッモーニン」
「よろしい。やればできるじゃないか。ではもう一度」
基礎は大切。ここを疎かにすればいつまで経っても上達しない。
「これじゃあ学校と変わらないよう! 」
三姉妹の真ん中が不服そうに言う。
まあ実際そこまで面白いところではない。
本番はまだまだこれから。
続く