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頼みごと

金曜日のホームルーム。

終末が近づき皆浮足立っている。

それは生徒だけでなく教員側にも言える。

私立で元女子高でもあるので土曜日もあるにはあるがほぼ部活動のみ。

生徒の自主性に任せている。行きたくなければ行かなくていい。

ただそれは生徒だけであり教員はそうも行かない。特に顧問は絶対に無理。


「青井先生今晩いかがですか? 快気祝いを兼ねてお食事でも」

とんでもないチャンス。逃すものか!

「おお…… 」

つい勢いで返事しようとする。だが残念ながら先約が入っている。

「ありがとうございます。誘って頂き嬉しいんですが予定が…… 申し訳ない」

断わりたくないが断らざるを得ない。何てタイミングが悪いんだ。


「英語でどうぞ」

こんな風に優しく返す。決して怒ったりしない。

理想の教師像であり女神でもある。

「アイハブ・アナザーアポイントメント アイムソーリー」

「ふふふ…… もう青井先生ったら…… 」

意外にもよく笑う。

「ははは…… おかしかったですかね? まあいいや」

二人は長い間笑い合った。


仮にこの姿を見たら仲のいい恋人に見えるだろうな。

俺もそう思うもんな。へへへ……

「実は毎週金曜日に夕食会も兼ねてちょっとした補習が。

英語の魅力を分かりやすくレクチャーしてるんですよ。だから今日もこの後……」

「はあ? 何を言ってるの? 」

「どうしましたミホ先生? 」

聞き違いかな? 素に戻ったようなミホ先生。

彼女に限ってそんなはずない。

「いえ青井先生が非常に熱心なので関心してたんですよ。本当に尊敬してしまう」

正直で困る。正直過ぎるところが玉に瑕。

「ハハハ…… そうですか。楽しいですよ。いつかミホ先生もお越しください。

生徒だけでなく大人も歓迎します」

一応は宣伝しておく。少しでも広がれば英語に興味を持つ者も増えるだろう。

ではまた後でと言って別れる。


「そうだ。ミホ先生に折り入って頼みたいことがありまして…… 」

速足で追いかけて強引に呼び止める。

二人は一瞬見つめ合う形に。俺も教師の端くれ。これくらいのことで動揺しない。

彼女の吸い取られそうな瞳につい心を奪われそうになる。

もう限界だ。こちらから視線を逸らす。

ああもったいなかったかな。このまま最後まで行ってしまえば良かったか?

でもここは人の往来のある廊下でもう間もなく生徒たちが姿を見せるはずだ。

そうなっては恥ずかしいどころの騒ぎではない。

生徒でもあるまいし全校生徒公認で付き合う訳にも行かない。

俺は仮にも生徒たちを導く誇り高き教師。

恥ずかしいことが出来るか。


我に返って話を戻す。

「ゴホン…… それで頼みとは何でしょうか? 」

少し照れくさそうに外の様子を窺う彼女。これは好感触? 

「大変申し上げにくいのですが…… 」

頼む気満々にも関わらずつい悪いなと思ってしまう。


「俺だけでは三つの部をまとめるのに限界が。

副顧問を引き受けていただけないでしょうか」

彼女は美術の講師なのだが美術部はもう一人のベテラン先生が顧問をしている。

彼女自身はどこのクラブも任されてない。今はフリーだ。

性格と容姿を考えればどのクラブも副顧問の要請をしてもおかしくない。

実際何度か断わったそう。ここは早く決断してもらいたいもの。

「ごめんなさい。もう少し時間を下さい。自信がないんです」

こう言われたら誰でも引き下がらざるを得ない。

そこまで求められてないから諦めるのだが俺は本当に困ってる。

ここで引き下がれない。粘るしかない。


「いえいえ私の不在の間世話をしてくれるだけで結構です。

出来たらタピオカの販売と引率、異世界の発見に協力していただければいいかと。

サマー部に関しては心配なさらずに何とかやっていけますので」

出来たらタピオカ部と異世界探索部の顧問を引き継いで欲しい。

だがそれでは彼女に悪いし後を託したスケルトンにも言い訳が出来ない。

タピオカ部のこだわりのある面々も嫌がるに決まってるしな。

ここは大人しく副顧問要請で我慢しよう。

俺って酷い奴?


「分かりました。今月中には回答するのでそこまでお待ちください」


                  続く

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