最終回後編 旅立ち
異世界生活十日目。
「どうしたまだ食べられないか? 」
「ごめんなさい。お肉はちょっと…… 」
らしくないアイ。元気なく食欲もない。
これではいつか体を壊してしまう。そんなことになれば命取りに。
「よし気分転換に歩こうか…… 」
「でも…… 」
ミホ先生が言うには体は悪くないそうだ。
ただ生徒たちが次々に亡くなりショックを受けているそう。
このままでは危険だと言うがどうすることもできない。
アイは大人しく俺の後に。
「どうだ気持ちいいだろう? 」
「うん。でも寒いかも。ありがとう先生」
やけに素直なアイ。調子が狂うんだよな。
いつもの明るくてかわいいアイに戻って欲しい。
ドンドン
ドンドン
何かを鳴らす音が聞こえる。それも一か所だけでなく何か所も。
これは明らかにわざとやっている?
「先生怖い…… 」
「戻るぞ! 」
「待って…… この音は一体? 」
不安なアイ。それはそうだよな。初めてのことだからな。
「実は…… 夜になると見境がなくなるんだ。もはや鬼と化しているぞ」
アイを困らせたくも怖がらせたくもなかったので黙っていたが実は鬼がいるのだ。
しかも鬼の正体は俺を求める者たちの成れの果て。
しかしそのことはさすがに言えない。
「よし走れ! 神殿には近づけないはずだから」
「うん! 分かった! 」
ようやくいつものアイに戻る。
「さあ早く! 追いかけて来るぞ! 」
音だけで目に見えない何かが迫っているのは確か。
「済まない…… 俺が優柔不断だったばかりに彼女たちを鬼にしてしまったんだ」
ドンドン
ドンドン
音が近づいてくる。すぐ後ろから迫ってくる感じ。
「手を! 」
「はい! 」
手を取り合って神殿まで走る。
ふう…… 危ない。どうにか逃れたらしい。
だが音はまだ続いている。
「開けるな! 開けたらお終いだ! 」
鬼を入れてはいけない。鬼を招待してはいけない。
もし招けば悲惨なことになるのは間違いない。
うん? どうやら音は止んだらしい。
俺たちの勝利だ!
「アイ…… 」
「先生! 私先生のことが…… 」
二人で乗り越えたことでより大きな絆で結ばれる。
そして止まらなくなる。
「最後まで言わなくていい。俺はいつものバカなアイが好きだ。
バカな子ほどかわいいって言うだろ? 」
「もう先生! アイはバカじゃないよ絶対! 」
根拠のない自信。これが彼女の特徴。
どうやら荒療治が成功して元のアイに戻ったらしい。
「アイ好きだ! 」
「アイも! 」
こうして皆の協力によりついにアイが完全復活。
「先生。やさしくお願い」
「分かってるさアイ」
「これで良かったんですよねミルルさん? 」
「たぶん良いんじゃないですか? 」
「これもアオイのためだ」
「ミホ先生。私たちも中へ入りましょう」
タオが寒いと我慢できずに勝手に中へ。
こうして夜は更けていく。
一年が過ぎた。
バタバタした一年があっという間に過ぎて行った。
落ち着いた俺たちは異世界の地図を手に旅に出る。
四人の女性とその子供を残して。
しばしのお別れ。
異世界の冒険が始まる。
「行ってらっしゃい。あなた」
「おう! 」
「先生…… じゃなかった。サプロウタさん。早く帰って来てね」
まだ慣れないらしい。無理もないか。
「分かった! この世界を抜け出し元の世界に戻れたら再び迎えに行くよ」
「絶対だからね? 」
「ああ分かってるって! 」
「もう行ってしまうのよ。ほらパパに何か言ってあげて」
俺たちの子供。戻ってくる頃には大きくなってるんだろうな。
出来るだけ早く戻ってやりたい。
食糧が尽きる前に。
「ははは…… まだ無理だよ。その子はまだ赤ん坊だ」
「本当に気を付けてくださいね青井さん。私が同行できれば良かったんですが」
「無理するなって。お腹には俺たちの子がいるんだからな。
うまく話しておくから。気にするな」
二人は旅立った。
四人の女性と三人の赤ん坊を残して。
青井サプロウタ。
英語教師。
タピオカ部顧問。
異世界探索部顧問。
異世界探索部隊長。
俺たちは異世界の奥の奥へ。
閉ざされた楽園からの脱出を試みて。
必ず見つかると信じている。
元の世界に繋がる出口を目指して。
この世界を彷徨った探検家の地図を手に。
踏み出す。
『タピタピクライシス 閉ざされた楽園 美しくも儚い青春残酷物語』
<完>
次回予告。
青井サプロウタ。
ミコ。
二人の異世界の旅。
今見ぬ出口を目指して。
再会を誓い別れし者を助けるため。
果てしない旅が今ここに始まる。
『タピタピクライシスⅡ』
乞うご期待。
この物語はフィクションです。
後記。
この物語は2019年に作られたものを今年に加筆修正し投稿した。
いわゆるデジタルノベライズ。
前期三部作の一つ。
『ファイブダラーズ』一作目
『タピタピクライシス』四作目
『紅心中』来年六月頃。
解説。
とある作品を参考にリスペクトを込めて作ったのが今作。
だから原作をなぞってる部分も多少あるかな。
それは『ファイブダラーズ』もそうだし『夏への招待状』も同じ。
原作の原作が指定が入ってるのでここでは紹介できない。分かる人には分かるかと。
そこで一言。
「十周年おめでとう! 」
原作は相当危険なので充分注意。お勧めははっきり言って出来ません。
副題の「美しくも儚い青春残酷物語」は原作を一言で表したもの。
主人公の青井はどうしようもない女好きの最低教師。
もっと立派で清廉潔白な教師でも良かったが良い人だと耐えられそうにないので。
これくらいがちょうどいいかな。
アークニンによる時空を超えた遠隔殺人。
その犠牲者がイセタンでありカズト。
アークニンはカズトの心に秘めた思いを感じ取り色々と仕込んだ。
それが結実したのが聖地・エンジェリックハウル。
ここで大事なのはイセタンが犠牲になったことでカズトが勢いづいたこと。
その結果カズト一人で乾杯。
もし何事もなく祝杯を挙げていたら全滅エンドもあり得た。
アークニンは異世界を発見した者を決して生かしておかない。
ヒロイン五名は三作とも共通。
五人を救うことが主人公の役目。
異世界探索隊には二つの部から選抜。
ミホ先生とミコは確定でタピオカ部から二名。
最期の一人をどうするかで迷ったが現地で調達することに。
タピオカ部の部長のタオ。
原作でも部長の存在が大きかったのでどうしても必要な存在。
アイは美人三姉妹の代表として。
美人三姉妹と言えば『第一村人殺人事件』にも似たような設定が。
しかも渡しもその爺さんまで同じだった気がする。
気付かずに似てしまった。ちなみに『タピタピ』の方が先。
『タピタピクライシスⅡ』について。
閉ざされた楽園にいるヒロインを救出するためにサプロウタが奮闘する。
早ければ来年。遅くても再来年には。
次回。
『33』(仮) 二月頃。
『紅心中』 六月頃。
ではまた来年。