閉ざされた楽園の中で
聖地・エンジェリックハウル。
異世界生活二日目。夜。
目の前にはタオの姿があった。
「先生私…… 」
イセタンが亡くなりカズトも報いを受けた。
異世界生活も二日目を迎えたが誰もその傷が癒えることはない。
「タオ…… 済まない」
もしこれがただ二人の生徒を失っただけならどうにかなっただろう。
気持ちに整理をつけて立ち上がることも可能かもしれない。
だが我々が直面してる状況はそんな甘いものではない。
異世界の扉が閉ざされてしまった。
これはもう絶望しかない。
教師の俺だってそうなのだから生徒たちは当然。
「ほら元気を出せ! まだ望みは断たれてない。
俺たちは死線を潜り抜けた異世界探索隊じゃないか。
乗り越えられない困難などない」
タオを励ます。そして自分にも強く言い聞かす。
まだ僅かながら可能性がある。いや可能性などと言うレベルではないが。
ただ脱出不可能とまでは行かない。
「俺がお前たちを誘ったから…… 」
「先生! お願い! 怖いの…… 」
ううう…… タオが俺を求めてるのはよく分かる。
だが俺にはどうしても決心がつかない。
この世界に来た。来れたと言うことはタオも恐らくは……
そんな彼女を俺が? 俺なんかが奪っていいのか?
仮にも教師と生徒だぞ。
それはたまにムラムラすることもあったさ。
コントロールを失い失望されたこともあった。
でもそれはほぼ冗談で…… ああ何でかいい思い出に変化してるぞ。
記憶の中で勝手に美化されてしまっている。今修正しないとまたおかしなことに。
ダメだ。やっぱり…… 決心がつかない。
「ほら一人になると危険だ。さあ神殿に戻ろう。みんな心配してるぞ」
教師としての立場を貫く。
カズトの奴があれだけ騒いだからな。
どうしてもその手の話になると俺自身が拒否反応を起こしてしまう。
あれだけのことがあったんだ。恐ろしくなるのも仕方ないさ。
だから俺に求めるのもそれはある意味正しい。
タオはそれでもまだマシな方だ。
アイの奴が落ち込み具合が激しい。
いつもふざけて馬鹿なことばかり言っていたのにただ静かで寂しそう。
もう限界なのか心を閉ざしている。
今ミホ先生に診てもらっているが予断を許さない状況。
特に食事が喉を通らない。
いくらまだ食糧に余裕があってもそれを食べられなければ意味がない。
食べても吐いてはそれこそ意味がない。
ただ体に問題はないとミホ先生も言ってる。
仲間が亡くなったことにショックを受けたものだろう。
ああ…… 早く元のちょっとバカで明るいアイに戻って欲しい。
「タオさん見つかりました? 」
「はい。どうやら一人になりたいらしい」
「無理もありません。心に深い傷を負ってますどの子も。
アイさんもようやく寝てくれましたが元気がなくて…… 」
普段のアイとは百八十度違うからな。
「他の者は? 」
「はい。ミコさんは相変わらずで逆に性格が明るくなったと言いますか……
変にハイテンションでして」
「それでミルルがついてると」
「そうですね。ミルルさんが一番安心して見ていられます」
ただそのミルルも足を怪我したらしく包帯を巻いている。
捻挫だと言うが悪化しないか心配だ。
「そろそろ俺たちも寝ましょうか? 」
「はい」
もう二人の間に何の障壁もない。
「青井先生。私たちが親となってこの子たちを見守っていきましょう」
どうしたのだろう? そんな軽々しく言う人だったかな?
「ええ…… ですが親はちょっと…… 」
できたらまだ生徒と教師で居たい。
それはもちろんミホ先生の言うことも理解してるつもりだ。
でも今すぐに決めるようなことでもない。
「まさか青井先生は彼女たちのことを…… 」
「ははは…… つまらないことは考えずに寝ましょう」
ようやくミホ先生も俺の思いに応えてくれた。
「ああそんなところ…… 」
ミホ先生が喘ぐ。
おかしいなまだ何もしてないんだけどな?
こうして長い異世界生活が本格的に始まる。
俺はまだどうすればいいのか分からない。
生徒たちとの関係に悩んでいる。
そんな毎日だ。
続く