カズト王の最期
イセタンが亡くなり異世界の扉も閉じられてしまった。
これもすべてカズトの策略によるもの。
俺がもっと早くに気がついていればこんなことには……
悔やんでも悔やみきれない。
「先生早くしろって! 俺が全部モノにするぞ。わははは! 」
カズトによる支配が始まるのか?
それだけは何としても阻止しなければならない。
「カズトいい加減にするんだ! もうこんなことをしてる時ではない! 」
こうなってしまっては説得するのは不可能だろうな。分っているさ。
カズトだって本性を現した以上引くに引けない状況。
「へへへ…… そうですか。選べませんか。優柔不断だな先生も。
そう言うところが俺みたいな者を付け上がらせるんだよ。
よく覚えておきな。でももう意味ないか」
弱者の王・カズトが権力を握ったら我々はもう終わりだ。
ここは覚悟を決めるしかなさそうだな。
もう奴は敵だ。生徒でもなければ仲間でもない。
そう非情に徹することにした。
あれだけ挑発されたんだ。これも仕方ないこと。
睨みつける。これ以上舐められて堪るものか。
「まあいいや。もう少し待ちましょうか。ははは!
俺はもう誰にも危害を加える気はない。だから大人しく従うんだな」
ふてぶてしい態度で余裕のカズト。
だが本当に良いのか? ただ閉じ込めただけで勝った気でいるが。
俺たち六人が力を合わせればカズト一人ぐらいどってことない。
しかもこの後もその関係を続けるなら一生気を張っていなければならない。
そんな毎日では必ず体を壊すし精神も持たない。
いがみ合うのではなく助け合うべきだ。
それが人間だろう?
冷静になればそれが分からない奴じゃない。
「ちょっと…… 」
「後はお前らで話し合ってもらおうか」
「待てカズト! 」
「どけ! 」
周りを取り囲んでいた者たちを振り払い大笑いで闊歩する。
乾杯のために用意したコップを手に取る。
「わはは! ひーひひひ! あー愉快。愉快。お前らは今後のことでも考えてろ!
そうだ先生。先に頂きますよ。これアークニン博士からの差し入れでしたよね? 」
カズトは暴走を始める。
「ああ…… 皆で乾杯しようと準備してもらっていたんだ。
まさかこんなことになるとはまったく…… 」
想定外の出来事に乾杯を一旦取りやめていた。
「わははは! 」
後悔の念に駆られる俺を見下したように笑い続けるカズト。
どこかイカレてるぜ。まあ異世界に行こうとする者のほとんどがイカレてるがな。
「それではお先に」
一気に飲み干して異世界への到達を祝うつもりだろう。
と言うよりも王就任を自ら祝う気なのかもしれない。
「ふざけるな! 」
「ははは…… 素晴らしい匂い。さすがはアークニン博士。それでは乾杯! 」
「バカやめろ! 飲むんじゃない! 」
俺たちの祝いの酒を穢しやがって! いや…… それ以上に何か違和感がある。
忠告を無視して紙コップに注がれた酒を一気に。
すべて飲み干したところで笑いながら叫ぶ。
「ははは! うま…… うぐ! うごおお! 」
突如苦しみだすカズト。
気持ち悪いのか顔が青くなったと思ったら真っ赤な血を吐く。
酒に混じって大量の血を吐く。
一体何が起きたんだ? まったくの意味不明。
「おいカズト! 大丈夫かお前? 」
きゃああ!
いやああ!
カズトは絶命する。
「カズト! カズト! 」
ダメだ。もう完全に死んでしまっている。
せっかく夢が叶ったのに。十分かそこらでカズト政権は終焉を迎える。
カズトの密かな計画はこうして幕を閉じた。
結局イセタンにしろカズトにしろ自らの夢を叶えて尽きてしまった。
すべてカズトが元凶とは言え引率の俺にも責任がある。
翌日。落ち着いたところで。
タオ、アイ、ミコ、ミホ先生、ミルルの順に花を手向ける。
と言ってもたくさんある訳ではないし食糧のことも考えるとその辺の花は使えない。
だから鏡子からもらった灰色の果実を手向けることに。
これでここに花が咲けばいいのだが。
ここがいつの日かたくさんの花が咲き誇る自然豊かな楽園になっていることを願う。
「ではこれで最後だ」
それぞれがお別れの言葉を述べ二人の遺体を埋める。
続く