宇宙人はいるか?
ホワイトボードには本日の議題がでかでかと書かれている。
書記がいる訳でもないのでその都度足されていくことはない。
そもそも記録に残すようなことでもないしな。
『宇宙人は本当にいるのか? 』
オカルト部かよ。勘弁してくれよな。
「先生の考えをお聞かせください」
部長は常に熱心で真面目。礼儀正しくもあり良い生徒だと思う。
でもいつも俺に振るのは頂けない。
全部が全部答えられる訳でもないし興味もない。
今まで一度だって宇宙人を身近に感じたことはない。
「宇宙生物はいると俺は思っている」
うおおお!
どよめきが起きる。
「まずは銀河の隅々まで行けるようにワープ技術の向上が課題じゃないかな。
その上で宇宙人を論じるべきだろう。今はまだ論じるには早すぎる。
まだその段階ではないよ。あと百光年先の話さ」
いつも否定していては悪いので知識を総動員する。
主にSF小説から。明らかに一つ間違いがあるが気づいただろうか?
「おお! さすがは我が部の顧問だけはありますね」
ちょっと上からだが尊敬されるのも悪くない。
ただ子供を騙す悪い大人もいる。誰が何と言おうと真に受けるべきではない。
「先生質問です。百光年先とは? 意味不明なのですが」
少女が冷静に間違いを指摘する。
「ははは…… 百年先のことだろ? 」
「違います。真面目にやってください! 」
少女からお叱りを受ける。やはりボロが出てしまった。
決して間違ったのではなく皆の能力を測っただけ。
話し合いを終え最後に決を採る。
否決!
二対三で惜しくも否定される。
ここでいくら否定されても関係ないんだけどね。
移って五分で帰りたくなった。
俺本当に彼らを導けるのだろうか?
次の議題に移る。
『異世界の探し方』
それぞれが勝手な思い付きで挙げて行く。
コンパス。
分度器。
スカウター。
レイダー。
古文書。
研究者へのインタビュー。
地図。
お告げ。
出席者全員が思いつく限りを絞り出した。
ふう本当に先が思いやられる。
だが顧問である以上それなりの答えを出さなければ信頼を失う。
あるはずないだろでお終いとはならないのが辛いところ。
どんな分野であろうと汗と涙の結晶である研究結果を無下に出来ない。
たとえオカルトであろうとそうでなかろうと。
でもこいつら本当に信じてるのか?
だとすればこいつらこそが宇宙人。いや未確認生物となる。
「先生はどのようなお考えでしょうか? 」
さすがは部長。この分野にも精通してるのか本気度が伝わってくる。
「いいか。探し方なら地図か古文書がいいだろう。古そうなのがいい。
逆に新しくて明らかに偽物っぽいものが案外当たりかもしれない。
見た目には惑わされるな。それは人間も同じだ。よく見極めることが大切。
それで誰か地図にしろ古文書にしろ心当たりあるのか? 」
全員が黙ってしまいないことが確定。いや唯一の女子が何か言いたそう。
まさか本当に持ってるのか? 確かめるならテレビ局にでも依頼するべきだな。
そうすれば専門家が喰いついてくるはずだから。
「誰だコンパスって言った奴は? まだ羅針盤なら格好つくがまさかのコンパス。
スカウターもレイダーも話にならない。テレビの見過ぎだ! 」
あまり否定するのも可哀想かな。楽しむ分には構わない。
でも俺を巻き込むなら確たる証拠を示さなければ。
「ああん? お告げって何だよ? そうか君か」
左の女の子。見た目から彼女なら可能かもしれない。そう思わせる雰囲気がある。
いつもおかしな舞いを演じてるそうだからな。
ただこれ以上放っておいていいのだろうか?
おかしな世界の住民になっては取り返しがつかない。
繁華街で踏み外すのではなくこのようにおかしな妄想に憑りつかれても問題だ。
いつか何か重大な事件を起こす恐れも。
異世界の探し方。
一位 古文書 三票
二位 地図 一票
三位 研究者へのインタビュー 一票
二位と三位は同数だが地図から古文書に変更したのが一名おり僅かながら。
「先生はどうですか? 」。
いやある訳ないだろ。ふざけてるのか?
おっと大人げない。ここは無難に行こう。
「俺は古文書と地図を合わせたのがベストだと思うよ。
もちろん異世界が存在する場合のみ有効だがね」
つい余計なことを言って動揺させる。
「宇宙人はいますよね? 」
「ああいるといいな。これだけ宇宙が広ければ一人や二人」
「では異世界はありますか? 」
「さあな。行ったことがないから何とも」
この子たちよりもずっと長く生きてきたが行った記憶がない。
そもそも行ったと言う奴を知らない…… こともない。
うわ…… やばい奴を思い出したぞ。
続く