異変 墓に眠る真実
神殿発見!
「これでここに留まるようなことになっても安心だ」
だからって嫌だぞ。こんな異世界で一生を過ごすなんて。一か月で充分。
避暑がてら夏の数日を過ごすのが理想的。
「ちょっと先生! 縁起でもないこと言わないでください! 」
タオが本気で怒る。
「まあまあ冗談だって! 冗談さ」
「冗談好きな先生って必ずおやじギャグを言うから嫌い! 」
アイは偏見でモノを言う。
これはまさかの振りなのか? でも恥ずかしくて言えない。
「おいおいそれはないよ。よしいいことを思いついた。
と言うより忘れていた。アークニンから頂いた祝い酒があったんだ。
たぶん奴のことだからお洒落にワインか何かだろ。
中身は開けてからのお楽しみだとさ。
やっぱり日本酒か? 焼酎じゃないよな?
俺は皆を呼ぶからお前らは紙コップに注いどいてくれ」
「待ってよ先生? まさか外でですか? 」
「ああ。そっちの方が解放感があって良いだろう? 異世界を祝して乾杯だ! 」
すっかり忘れていたな。だからって彼の好意を無にはできない。
ここはありがたく盛大に祝うとしよう。
「ちょっと待って! その前に付き合ってくれませんか? 」
まだ見せてない場所があると引っ張っていくタオ。
やはりここではバカな子のアイよりもタオの方が頼りになるな。
「それは乾杯してからでもゆっくり…… 」
「いいから早く! 」
何て強引な。ちっとも言うことを聞かない困った子たちだ。
「先生。本当はアイが先に見つけたんだから」
「はいはい。そんなことはどっちでもいいから早くしろ」
「嘘はダメだよアイ! 」
「タオはただのお墓でしょう? 私は暗号なんだから」
勝ち誇るアイ。墓って何だ? 謎の解明にはプラスになりそうだが。
暗号は恐らくアイが大げさに言ってるだけ。
まずは神殿の外。土が盛り上がってる場所へ。
正面に回ってみると確かに言う通り墓みたいだ。
即席で作られた簡単な墓のようなもの。
恐らく燃やさずに掘って埋葬したのだろう。
と言うことは今この下には死体が埋まってることになる。
夜になれば起き上がることもあり得る。
何と言ってもここは異世界。常識では考えないことが起こっても不思議はない。
墓に刺さった木の棒には名前が記されている。
「おいこいつら…… 」
「はい最後のところをよく見てください」
「これは…… アークニン探索隊? 」
「そうです。月日をよく見て」
「六名とも同じ月日と言うことは…… 」
「はい。恐らくその日に何かあったんだと思います。とんでもない事件が! 」
そうタオは冷静に言うが俺にはもう何が何だか。
合流予定だった先行のアークニン探索隊が全滅。道理で姿を見せない訳だ。
衝撃の真実にただ茫然とするだけ。
「全滅なのか? 」
「いえ…… 少なくても一人以上は生き残ったはず。
誰が遺体を埋めて墓を作るって言うんです? 」
「すると我々と同じようにどうにか第三ゾーンを抜け異世界へたどり着いた。
しかし何らかの原因で一瞬でほぼ全滅したと」
「墓に書いてる通りだとすれば恐らくは」
タオはそのことを知らせたくて神殿に連れて来たようだ。
神殿も大発見だったがこちらの方が何倍も衝撃的。
とにかく手を合わせて故人を悼む。
ああ嫌だ嫌だ。こんなもの発見するんじゃなかった。
と言うかもうなかったことにして封印してしまいたい気持ちが強い。
「なぜこんなことに? 」
「先生が分からないことは私たちにも無理ですよ」
タオの言う通り。何の手がかりもない訳だからな。
「先生こっちも早く! 」
アイは堪えてない。ここまで冷静なのはすべてを知るから?
ははは…… そんな訳ないよな。何て言っても二人を誘ったのは俺なのだから。
しかもほぼ無理やり。泣き落としみたいなものだった。
彼女たちを疑うのは違う。間違っている。
だとするとアイは単純に想像できないだけ。バカな子だから当然か。
俺はアイがうらやましいよ。
それでは気を取り直して探索。
神殿の入り口まで連れてこられた。
「おいアイ? 中に入らないのか? 」
「ほらここ? 先生得意でしょう? 」
確かに柱の一本に何か彫られた形跡がある。
せっかくの貴重な建築物を傷つけるとは不届きな奴だ。
「そのガキのいたずらがどうした? 」
「先生英語! 英語! 」
アイが指摘するようにローマ字が。
「タオも見たんだろ? 」
「はい。でもどうも人の名前みたいなんですがよく分からなくて…… 」
「そうそう。エンゼルが腹を壊したとか…… 訳分かんない! 」
考えるのも面倒臭いと投げやりなアイ。
訳分かんないのはお前だ!
「どれどれ…… 」
取り敢えず一文字一文字書き取っていくことに。
続く
HOWL