神殿探索
これは…… 神殿?
まるで時が止まったかのようにぴかぴかの白亜の神殿。
「お邪魔します」
気配は感じられないが中に人がいるかもしれないからな。
まずあり得ないが慎重にも慎重に。特に異世界であれば尚更。
「それで中に人は? 」
「いる訳ないでしょう! 」
タオが断定するがもちろんそんなことない。
まだ確認はしてないのだとか。いい加減だな。
「アークニン探索隊がいるはずなんだけどな…… 」
「いても幽霊でしょう? 」
「冗談はやめてよアイ! 」
タオが怯える。それを見てアイが大笑い。
リラックスし過ぎだぞ。少しは時と場所を選べよな。
「アイ! ほら静かに! 」
神聖な場所での大笑いは下品だし相応しくない。だから叱りもする。
だが本当のところは警戒されたり攻撃されたりする恐れがあるからだ。
「静かに。さあ入るぞ」
神殿かな?
どうやら今は使われてないようだな。
なぜこんなところにでっかい神殿が? 疑問が湧くがまあこの際どうでもいいか。
元々白い建物だったようだ。
時が経つにつれて黒ずんだり痛んだりと劣化が激しくなるのが普通。
当然人がいないのだから管理などされてない。
それなのに不自然なほど白く輝いている不思議。
我々の考えが及ばない技術の結晶体のよう。
こんなことで驚いていたら笑われるかな。
とにかく探索を始めるとしよう。
「あれ? アイ? 」
いきなりアイが姿を消した。あれほど勝手な行動は控えるように言ったのに。
「アイ! アイ! どこだ? 」
慌てて探し回る。まったくこんな時に迷子になりやがって。
どれだけ迷惑を掛けたら気が済むんだ?
俺は引率の教師であってお前らの保護者じゃない。
はっきり言って見捨てるぞ。もちろん口だけでできやしないが。
しかし他の者に迷惑が掛かるだけでなく危険が及ぶ。決してやってはいけない。
「ダメ入ってこないで! 」
いつもと違う緊迫した声のアイ。
まさかアイに何かあったのか?
何だここ? トイレ?
「ああごめん。くそしてたのか」
バチンと頬を張られる。
「もう最低! 」
「いや…… 個室まで入った訳じゃないのに…… 手を洗えよな。ご褒美か? 」
「うわ先生…… すごく気持ち悪いですよ」
タオに引かれる。どど…… どうしよう? ここは何とか誤魔化さないと。
「タオお前もしてこい! 我慢すると体に悪いぞ」
バチンバチン
何のためらいもなく頬を張りやがる。
異世界に来てまでこんな悪ふざけをしなければならないなんてどんな因果だよ?
すべてはアイが何も言わずに勝手な行動を取るから。
「おいもう手は洗ったな? ホラ手を出せ! 」
「ちょっと先生…… 恥ずかしい」
「仕方ないだろ? お前がどっかに行っちまうから」
「タオも何か言ってよ! 」
「お前も繋ぐか? 」
「いえ結構です! 」
なぜか怒り出すタオであった。ご機嫌斜めなのかな?
「それで先生はどう思いますか? 」
タオが改めて聞く。
「この建物が何かと言えば神殿だろうな」
「そうではなく。もう先生! 」
なぜかさっきから機嫌が悪いタオ。
不慣れな異世界に緊張してるのか?
「ああたぶん昔の遺物だろう。昔の技術とは言え異世界人は侮れない。
ただ俺はあくまで英語の教師だから適当だ。すべて推測に過ぎん」
「トイレがあるのはどう言うことでしょうか? 」
「異世界人だってくそぐらいするだろ? 」
「もう下品! そうではなく違和感ありませんか? 」
「恐らく最初に異世界に入った探検家がリフォームしたんだろ」
「リフォームって…… 」
「ああ和製英語だ」
「そうじゃなくて! もういいです! 」
タオは俺に聞くが今さっき来たばかりの俺が分かるはずない。
教師として常識の範囲で推測してみただけ。
もしどうしてもこの神殿の謎に挑みたいなら考古学者でも呼び寄せるしかない。
だが奴らにだって分かるものか。何と言っても異世界なのだからな。
「へえ何にしてもすごいんだ」
アイはすぐに関心してくれるから助かる。
「二人とも本当に素晴らしいものを発見してくれた。
もしこれでこの世界に留まるようなことになっても快適な生活が送れるぞ」
つい口からポロっと。とても恐ろしいことだと分かっていながらふざけてしまう。
まさか俺はここで閉じ込められたい願望でもあるのか?
単なる変態なのか俺は?
嫌だぞこんな異世界で一生を過ごすなんて。一か月で充分。
避暑がてら夏の数日を過ごすのが理想的。
続く
LIC