白亜の神殿
「なあミルル。もし一日が過ぎ閉ざされたとして再度行くことは可能かな? 」
何もずっと中にいる必要はない。
日暮れ前に戻り再び翌日にでも探索すればいいだけの話。
「それは私にも分かりません。ただ一定期間閉ざされたままと聞いたことが」
と言うことは実質一日が限度。
異世界探索には時間が限られておりもし誘惑に負け奥に行けば閉じ込められる。
元々その辺のことは想定されていない。
異世界とはそもそも到着点ではない。出発点なのだ。
新世界に逃れ新たな世界を切り拓いて行くのが本来のあるべき姿。
そう言う意味では我々は異質な存在。
「他にはあるミルル? 」
タオがやさしく促す。
「それから…… こんなことは絶対に起きないと思いますが…… 」
ミルルが念のために付け加える。
「時間が経過しなくてもこちら側から閉ざしてしまえば二度と開きません。
そうなったらどこかにあるとも知らない出口を見つけるぐらいですかね。
あの…… 皆さん聞いてますか? とても重要なことなんですよ」
本当に聞いてるか不安だと必死に訴えかける。
ミルルの気持ちも理解してやる必要がある。
とは言えそんなことあり得ないと思ってる自分がいるのも確か。
「注意事項はもうそれくらいで良いよミルル」
「待って! 間違って閉ざしてしまえばもう…… 」
「分かった。分った。大丈夫だって」
せっかくのミルルの忠告も適当に聞き流す。
異世界探索に早く行きたくてもう待てない生徒たち。
心ここにあらずで注意力散漫になっている。
それは俺も似たようなもの。
「よし異世界探索に出発だ! 」
「おう! 」
まずはこの周辺で情報収集と行くか。
とは言っても人がいる訳ではない。何かある訳でもないだろうな。
そう言えばアークニン探索隊はどうなったんだっけ?
恐らく異世界にたどり着いたはずだが。
突然思い出したように彼らの存在が気になり始める。
未だに消息不明だからな。合流しようがない。
旧常冬村で消息を絶ち恐らくクルミの船で旧東境村まで渡り異世界へ。
我々と同じルートを通ってきたはずだ。それなのに会えないのはなぜ?
「探索開始だ! 」
「ハイ! 」
「よしでは解散! 各自好きにしていい。何かあったら知らせてくれ。
くれぐれも遠くに行くなよ。逸れて迷子になったら置いていくからな」
念のために注意する。
「はーい! 」
異世界は引き続きモヤが掛かっている。
大地は緑で埋め尽くされており花もあちらこちらで咲き誇っている。
近くには川が流れており魚も見たところ沢山いる。
想像した楽園のイメージには程遠いが冷たく寂しい世界と言う訳でもなさそうだ。
旧東境村と違うところは気温だろうな。思っていたよりも寒くない。
まだ冷え冷えとするが真冬とまでいかず春の初めか秋の終わりぐらいの陽気。
小春日和だろうか? もちろん太陽は見当たらないが。
モヤと上空の雲のせいであるんだかないんだか。
ミルルを信じれば恐らく元の世界と同じようにあるはずなんだが。
ははは…… もう元の世界だもんな。
この世界は異世界。それはあちらの住民から見た場合。
もう俺たちから見れば元の世界は異世界になる。
光の道の時からそう言うことになるのかな?
今のところ恐ろしい巨大生物や異世界の番人であるあの化け物も姿を見せない。
見渡す限りモヤと雲と大地。
だがモヤを超え今見える雲の向こうにはどんな世界が広がっているか分からない。
ワクワクドキドキもあるがどうしても恐怖や不安の方が勝ってしまう。
何と言っても異世界だからな。想像ではない本場の異世界はどんなところか?
動植物の観察をしてみるのも悪くないかな。
ただ花は咲き誇っているが動物は川を泳ぐ魚ぐらいなもの。
「先生! 」
せっかく自分の世界に没入していたのに邪魔をされてしまう。
アイとタオが何かを発見したらしい。
「おい! 勝手に遠くに行くなと言ったろ? 」
ここは異世界。いつどうなるか分からない。
いくら自由時間でもきちんと約束を守らなくてはいけない。
「もううるさいな! 説教はいいから早く来てよ! 」
アイが生意気を言う。いつも甘やかしてるのがこういう形で出てしまう。
いくら厳しくしようとしてもかわいいからつい…… 教師失格だな。
「待てって二人とも。他の奴も連れて…… 」
「まずは先生と! 」
確認だとさ。意外にも慎重。行動が大胆だか慎重だかはっきりしろよな。
これは…… 神殿?
まるでここだけ時が止まったかのようにぴかぴかの白亜の神殿。
「お邪魔します」
気配は感じられないが中に人がいるかもしれないからな。
続く
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