最後の仕上げ カズトの異常なまでの執念
「いっそのこと全員で突っ込んでみると言うのはどうでしょう? 」
やけくそワイルドカズト。強行策で場をかき乱す。
大した理論に基づかない投げやりの提案に付き合ってられるか。
もう本当に時間がないんだぞ?
次だ。次に失敗したらもう本当に終了になってしまう。
「それは素晴らしい。ではまずカズトが試してみてくれないか」
「そんな…… 」
カズトも本気ではなかったのか大人しくなる。
考えは決して間違ってないがすべてを試してる余裕がない。
「青井先生。視点を変えてダンスしてみてはいかがでしょう? 」
ミホ先生はいつの間にかミコに感化されて踊り出す。
ミコも負けずに異世界の舞を披露。
まるでダンス対決してるかのよう。
まったくこんな大事な時に何をやってるんだか。
この二人正気か?
ミコがミコならミホ先生もミホ先生だよな。
まさか化け物でもおびき寄せるつもりか?
だがいくら注意しようにもこれは神聖な儀式だと突っぱねられたら厄介。
「たとえ正しくてもいつ終わることか…… 時間が掛かり過ぎます」
踊ってどうにかなるものではないだろう。揺らしてどうにかなるなら苦労ないよ。
合言葉も踊りも今は受け付けない。
最後の難関の前で思考を放棄し始めたメンバー。
いい加減真面目に考えてくれよな。これはお遊びではないんだぞ?
良いアイディアではなく今求めてるのは答え。それだけだ。他はいらない。
「土台を含めた固定された全体ではなく鏡部分のみを取り外してみては? 」
タオが指摘する。それは斬新なアイディアだが意味があるのか?
「イセタンはどう思う? 」
比較的頭の回転が速くそれでいて冷静なイセタンに話を聞く。
苦しさから横になっていたイセタンが復活。痛みから解放され立ち上がる。
「タオさんの言う通り。鏡の枠部分を無理やり取り外せばいいと思います。
たぶんこの手の仕掛けはさほど難しくない」
「そうだ! もしかしたら鏡と鏡を張り合わせてるのかもしれませんよ」
二人のがヒントとなりミルルが閃いた?
「どういうことだミルル? 」
「ですから異世界の光を隠すために別の鏡を接合したのではないかと」
「それは面白いかもしれませんね」
ふうっと大きく息を吐くイセタン。そして苦しそうにせき込む。
まだ完全ではないようでよろける。
「イセタン! 無理するな。よし誰か支えてやってくれ。
それからナイフを持ってきた者は手を挙げてくれ」
「先生! 俺こんなこともあろうかと用意しておきました」
カズトは意外にもこう言う時に期待に応えてくれるんだよな。
うん? おいおいこれがナイフか? まるで剣のように鋭く危険な感じがする。
刃渡りはどれくらいだ? 没収した方がいいのでは?
ナイフに映ったカズトの顔は狂気そのもので寒気を感じる。
何かすごく嫌な予感がする。具体的にどうとは指摘できないが。
このことに俺以外誰も気づいてないらしい。おかしいな?
どうやら誰もカズトに関心がないらしい。
「よし貸してくれ! 」
「いえ俺がやりますよ。慣れてないと手こずりますから。
もう時間がありません。真っ暗になるまでに何とかしますんで」
カズトの言い分はもっともだ。ここは信じることに。
カズトに大事な任務を任せて後ろに下がってることに。
「皆も危ないから離れてろ! 」
まさか刃先が飛んでくることもあるまいが。
カズトが狂って振り回すかふざけて振り回すか。
ターゲットが近くにいればやりたくなるのが子供の心理。
すべてカズトに任せて他の者は休憩してもらう。
カズトは鏡の枠部分に刃を差し込みゆっくり左へ右へ。
深く深く刃を奥へ。
そして徐々に回していく。
グサグサ
ザクザク
ギギギ
ガグ
ギギギ
キン
グググ
ギギギ
長い間悪戦苦闘しながら一人黙々と作業に取り組んでいる。
我々はその様子を飲み食いしながら寛いで見守る。
今俺たちには寛ぎながら応援することしかできない。
すべてを彼に任せていいのだろうか?
ほぼ闇の世界。
隣りの者が誰かさえ認識できなくなりつつある。
それほど沈んだ世界でカズトの作業音が響き渡る。
そうこうしてるうちにもう完全に闇となってしまった。
「おい皆動くなよ。絶対に離れるな!
ここで迷ったらお終いだぞ。ここに迷子センターはないからな」
ふざけてみるが誰も何も発さない。
怖いのかそれともカズトを見守ってるのか。
音に敏感なイセタンはミホ先生に支えられながら耳を押さえる。
頑張ってどうにか堪えてるようだ。
続く