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ゆずとコブクロ

さっそく副部長の試作品を試飲。

「美味いぞ! この弾けるような爽快感。甘ったるくなくフルーティー。

甘さ控え目のトロピカルドリンク風で人気間違いなしだ! よしこっちも。

うぐぐぐ…… 何だこれはくそまずい」

つい我慢出来ずに本気でダメだしをしてしまった。

俺は何てことを…… 調子に乗って生徒の純粋な心を踏みにじってしまった。

そこまでではないだろうが深く傷ついたに違いない。


「うん。まあまあかな。ははは…… 」

訂正した上で笑ってごまかしたが張りつめた空気に。

「先生。正直にお願いします! 」

副部長は堪えてないらしい。ならばここは心を鬼にして意見しよう。

「済まん。やはり美味しくないよ。どうも変な味がする」

俺は隠していたが味にはうるさい方。しかもちょっとした違いが分かるのだ。

ただ分かったからと言ってそのまま言うのは大人げなくマナー違反でもある。

ここは少々ぼかして指摘してやるのがいい。


「実は隠し味にゆずを足してみました」

タピオカにゆず? だからか。

ゆずにコブクロなら分からなくもないが。いや…… 分からないか。

「間違ってはないと思うよ。でもくそまずい! 」

「ゆずの香りが爽やかでおしゃれかなと思いまして」

別に本人がそう思うなら構わないのではないか?

ただ失敗したら場所を提供してくれた方に申し訳が立たない。

良いですよと笑ってくれるだろうが翌年には理由をつけ断るだろう。

だから大成功はいらない。大失敗さえしなければいいのだ。

買う方も面白がって買うことだってあるからな。

これを持って完全に失敗とは限らないが冒険する必要はまったくない。

斬新なアイディアはいいが採用には慎重さが求められる。


「ゆずは万人受けしない。大人は良いが子供受けがな。

老人はまだしも若い世代に敬遠されたらお終い」

甘いのばかりだから酸っぱい系も入れるのは面白いが求められてない恐れも。

惨敗が見えるのであれば退くのが当たり前。


「先生が苦手なだけでしょう? 美味しいんだから! 」

そう言って美人三姉妹の一番上が飲み干す。

一番上と言っても姉妹でも何でもない。ただスケルトンがそう命名しただけ。

まさか俺の味覚を疑う者が現れるとは。良い根性してる。

「先生もういいですから。これは諦めます」

意外にもあっさり退く副部長。

渾身の一作と言うよりもチャレンジなのだろう。


「良いか皆よく聞け! 挑戦することは評価する。だがこれも金を払う客次第。

満足するかが大事。逆に不満を感じればあっと言う間に逃げて行く。

無難なものにしておけとまで言わないがより欠点の少ないものを選ぶべきだ」

皆を見回す。

部長以下真剣な表情。ああ三姉妹の真ん中が欠伸してるよ。

どれだけやる気がないんだ? 眠いなら来なくてもいいんだぞ。

今そんなことが言えたらどれだけいいか。

厳しく接すると辞めちまうか訴えられるかだからな。

後で部長に注意させるのがいい。

どうも姑息で行けないがこれも彼女たちの為。


「副部長には悪いがはっきり言う。これは没だ! 次を考えてこい! 

必ず当日までに間に合わせるんだ。最低でも後一つを完成させてこい! 」

「はい」

「声が小さい! やる気があるのか? 」

「はい! 」

うん。欠伸してる奴も居なくなった。これでいい。これで。

俺の作り上げた王国を確固たるものにする。

前王スケルトンより引き継いだ王国を崩壊させることなくより発展させていく。

それが使命であり願望である。


「それからお前ら自身で研究し尽くすんだ。

休みを有効活用してタピオカドリンクを飲みまくれ!

有名店を回って味の比較をするんだ。

放課後は遅くなるし寄り道は原則禁止。分かってると思うが。注意したからな」

一応は釘をさす。もちろん形だけ。

暴走されては敵わない。しかも俺が推奨したみたいになったら大問題に。

タピオカ部の存続危機にまで発展しかねない。

他生徒や学校の手前早朝タピオカも寄り道タピオカも禁じる。


「いいかお前ら今月は絶対百杯完売だ! 来月は二百杯。その次は三百杯。

目標を高く持て! 我々のお店が一番を取れるように頑張るんだ!

分かったか? 分かんなくてもやるんだ! 」

煽ってその気にさせる。結果はどうであれ目標に向かい一致団結することが尊い。

「はい! 」

皆の目が輝いた。これは良い兆候だ。

だらだらと続けるより目標を持って日々の部活動を取り組む方がいい。

スケルトンは甘いから恐らく口出しをしなかったのだろう。

だが俺は違う。顧問になった以上従ってもらう。

ふうこれで少しは部活動らしくなってきたかな。


「お店って何よ? 」

「一人で興奮して困った先生」

不満が噴出しだす。

俺の方針が気に喰わないと。それはそれで仕方がない。

どうやら楽しくのんびりやりたい者もいるらしい。

それは俺も理解してるし尊重もする。


「いや…… 今のはすべて目標で…… 後は各自好きにするといい」

トーンを下げて協調を図る。

危ない危ない。大量の脱落者が出てしまいかねないところだった。

少々やり過ぎたかな。

そろそろ隣に移るとしよう。


                 続く

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