仮説 異世界の扉は複数存在する?
第三ゾーン。
トラと化け物の襲撃を受けるもどうにか回避。
ついに第三ゾーンへと足を踏み入れた異世界探索隊。
ゾーンファイナルである以上ここのどこかに異世界の扉があるはず。
もう間もなくだ。悲願達成は目前に迫っている。
残るは異世界の扉を開くだけ。
「なあミルル。異世界の扉がどこにあるか聞いてないか? 」
確かに第三世界をしらみつぶしに探せば見つかるはずだが。
いち早く見つけたい。皆の体力が尽きる前に。
「いえ…… 聞いてません。ただ扉が一つとは限りませんが」
「ええ! 一つじゃないの? 」
アイが叫ぶ。
驚愕の新事実。まさかそんなことあり得るのか?
「俺も一つだと思ってたが。違うのか? 」
「あの青井先生…… 一つだけであれほど化け物がなだれ込みますかね? 」
ミホ先生の鋭い推理。
「はいその通りです。これだけの化け物が流入するのは扉が複数あるからです」
「断定していいのミルル? 」
タオは冷静だ。
「失礼しました。すべて予測です。ただ別に複数あっても問題ないんですよ」
「守るべき神聖な場所ではないのか? 」
「もちろんその通り。しかし異世界へたどり着けるのは条件に適った者のみ。
そこまでの道のりも大変過酷なものですから。
しかも見つけても異世界の扉の向こうに行けるのは限られた者だけですから」
メルルを信じるなら異世界への扉が二個も三個もあることになるな。
条件もあって楽勝と言う訳でもなさそうだが……
アークニン曰く我々にはその条件が揃ってるそう。
複数ね……
元々異世界の扉はここだけではないとアークニンも言っていた。
ミルルの話はあくまで仮説で実際に行って確かめるしかないか。
ここで異世界の定義だが……
この世界に属さない場所だとすれば世界と世界を繋ぐ異空間も異世界と言える。
だがもちろん我々が目指してるのはあくまで新世界。伝説の楽園。
「おい何やってるんだよ! 早くしてくれよ! 」
我慢できずに先頭のカズトが大声をだす。
一人張り切っているカズト。もう少し慎重であって欲しいな。
「悪い悪い。さあ急ぐぞ! もう夕暮れだ! 」
「ちょっと待って! もう疲れた」
こんな時にわがままを言うアイ。
それにつられるようにタオも弱音を吐く。
そうするとミホ先生まで。
ミルルも疲れが見え始めている。
イセタンも支えられて歩くのがやっとの状態。
まずいな。これは危険な兆候。
隊がやる気を失えばバラバラになってしまう。
「頑張れ! このままでは野宿することになるぞ。それでもいいのか? 」
何とかしないと足が止まれば奴らの思う壺。
上空で獲物の臭いを嗅ぎ分けてる化け物。
もし同じところに長時間留まれば狙われる確率が一気に高まる。
「そんな…… 」
「先生酷い! 」
文句を言いながらも渋々歩き出した生徒たち。
もう限界は近い。それは俺も同じ。
一番体力があって経験値もあるが何と言っても睡眠不足。
ここ最近まともに眠ってなったからな。
徐々に影響が出始めている。
とにかく化け物の脅威のないどこか安全で落ち着いたところで体を休めなければ。
「さあ急ぐぞ! あと少し。もう少しだ! 」
「はーい! 」
元気な返事が返ってくる。
探索隊は東へ東へ。
前方を確認しながら。もちろん化け物に注意しながら慎重に進む。
東へ東へ。ひたすら東へ向かう。
この辺りにはもう獣はいない。
化け物のみだ。
前へ前へ。
ひたすら前へ。
自分を信じて前へ進む。
もう引き返すことなど不可能なところまで来た。
何と言っても帰る道などない。
ただモヤが掛かった道を臭いを頼りに前進するだけだ。
見えるのは鏡のみ。ところどころに棄て置かれている。
一キロ。
恐らく東進。
コンパスが機能してないので適当だがとにかく東へ。
二キロ、三キロと白いモヤと格闘しながら前へ。
そうして黙々と進んでいく。
もはや誰も声を上げない。
もう疲れてそんな気力がないのだろう?
だがそれは危険だ。
何と言ってもここはモヤの世界。
後方の者がいなくなれば気づくのが遅れてしまう。
少しでも距離を取ればモヤによりいなくなっても違和感を感じづらくなる。
そんな時こそ声をかけるべきなのだが……
もうそろそろ五キロ行こうかと言うところでストップ。
「六時近いぞ。あと一時間もすれば完全な闇に包まれてしまう。
どうだ二人とも音はどうなってる? 」
一列に行進する部隊を止め経過を観察する。
この第三ゾーンが日暮れがあるとしてだがあと一時間もすれば闇になる。
そのまま真っ白なモヤの世界のままかもしれない。
どちらにせよ化け物の脅威がなくなることはないが。
逆に夜になれば活発になる恐れもある。
続く