異世界からのシグナル
「ありがとう皆。そんな皆の思いに応えたいと思います。
でもその前に一つだけお願いがあります。
決して誰にも漏らさないと誓って欲しい…… できますか? 」
ミルルは慎重だ。情報と引き換えに約束を取り付けようとしている。
それがこの地方に住む者の責務。
我々を手助けしたいし故郷も守りたい。
そんなところだろうか?
「俺は構わない。皆もそれで良いよな? 」
「はい! 」
一応は全員の意思を確認するが守ればいいだけのことだからな。
そんな難しいことでもない。
他言無用か? どうせ話す機会なんかやって来やしないさ。
いい加減な気持ちで答えてるのではない。
「ありがとう皆さん。では今から話すこと,それに異世界自体を他言しない。
それでいいですね? 」
心配なのか何度も念を押すミルル。
少しは俺たちを信用しろよな。
「はい! 」
これで心置きなく話せるだろう。
「今二人が苦しんでいる耳鳴りや幻聴のようなものは異世界から発せられてます。
だから近づくにつれどんどん強く激しくなっていきます。
ですから当然近づけば近づく程酷くなっていく。即ちそこが異世界の扉なのです。
もちろん臭いを嗅ぎ取ることも可能だと考えていますが音に比べれば僅かなもの。
臭いは自然の香りや化け物の体臭が強ければかき消されてしまう脆いもの。
だから臭いを頼ると言うのは結局は運任せと変わらないのです。
ですがこれだって異世界を探す貴重な判断材料。やはり疎かにはできません。
恐らくイントを積みこれらのことを教えてもらったから異世界へすんなりと」
それは要するに身内に裏切り者がいると言うこと。
だからミルルは迷った。他言無用とまで言ったのだろう。
単純に故郷を守るためではなく家族を庇うため。
ミルルから大変貴重な情報を得る。
ざわざわ
ざわざわ
「本当かよ? 」
「そんなことあり得るのか? 」
混乱するメンバーたち。
「あのミルルさん。なぜ私たちはこの音を聞き取れないのでしょうか? 」
ミホ先生が当然の疑問を投げかける。
「そうだよな。何でこの二人だけ。年齢や若さならアイたち他のメンバーだって」
二人が周りで聞き取れているであろう音とその違いについて聞く。
「それは…… 」
ここで押し黙ってしまった。秘密と言うより何か違う理由で言いにくそう。
「言えません! 年齢だとか。若さだとか。雑音を聞き取るだとか……
分かりません! 分らないんです! 」
「ああ要するに若くても雑音をただの雑音だと認識すると聞こえない。
認識の問題だと? 聞きたくても聞けない。と言うか聞きたくない。
だから女性では難しい? 」
ミルルが困ってるようなのでフォローする。
「ええそんなところです。まだ詳しくは解明されていません。
とにかく何にでも興味を持ち立ち向かう勇気でもなければ難しく実際必要のない」
要はまだ何も解明されてなくてまだ予測の段階だと。
「そうか何となく分かったよ。なあタオ。お前は聞こえるか?
他の者もどうだ? 確認してくれ」
「いえまったく…… 」
ミホ先生は当然として生徒たちも耳を傾けるが真似してるに過ぎず困惑した様子。
どうやら女性陣では聞き取れないらしい。
俺とミホ先生だけなら年齢とも言えるが最年少のミルルまで無理なのは解せない。
何らかの違いがある。目には見えない明確な違い。
仮にそれが分かったとしてもどうにもなるものでもない。
そう言えばアークニンがこれに近いことを言っていたような気がする。
あのアークニンだからな。嘘だと聞き流したっけ。
今さらながらに後悔している。
「本当かよお前ら? 」
苦しんでる二人がふざけてるようには見えないしな。
「信じてくださいよ先生! 」
どうもカズトが言うと嘘臭く聞こえるんだよな。彼の人徳のなせる業かな?
もう慣れてきたらしく耳を思いっきり塞いでる必要もないと。
「ハイ? 何か? 」
イセタンはカズトに比べてコントロールに苦しんでる様子。
気を抜いて少しでも耳を放っておくと激痛が待っているのか随分辛そうだ。
これはひどい…… 重症だ。
だが俺にはその苦しみも痛みも分かってやれない。
「よし分かった! この音を頼りに探ってみよう」
ミルルの話を打ち切って歩き出す。
「ちょっと待って青井さん! もう少しだけ話を聞いて! 」
必死なミルル。どうやらまだ伝えてないことがあるらしい。
続く