金曜日の二人 出会えると信じて
異世界探索部。
異世界について真剣に討論している。
本来これほど熱心なら敢えて口を挟むことはないのだが内容が内容だけにね。
「英語は良いぞ」
英語を勧めるが当然ながら良い反応をしない。
英語は世界共通語。ならば異世界でも通じるのでは?
さすがに本気で言ってるのではなく熱中し過ぎるなと釘を刺すつもりで。
ついでに週に一回のイベントの宣伝にもなる。
課外授業と言うかプライベートレッスンと言うか。
結局五人の内四人が反対する。
それはそうか。当然だよな。こんなので騙されるはずがない。
意外にも頭がいい。この部の者は頭が悪いのではなく変なんだ。
部長を初め異世界に憑りつかれた精鋭たちだけあって一筋縄では行かない。
おっと…… 温度差があったな。皆を一緒に括るのは良くない。
若さで括るのはもっと良くない。
海外ではUFOやUMAに生涯をささげたおかしな研究者もいる。
悲惨なのは研究機関でもなく莫大な資金が調達出来る訳でもない一般人。
私財を投じて情熱を傾ける自称博士の類だ。
道楽と割り切ってる金持ちならいいが資金が尽き借金だらけの自称研究家もいる。
彼らの最後は見られたものではない。だからこそその道に進む前に今止めるべき。
今だぞ? 様子を見ようは危険。取り返しのつかないことになる。
これなら財宝発掘に尽力した方がまだ望みがある。財宝がある確証があればね。
異世界ではいつまで経ってもたどり着けない。
一人どうするか迷っている子。
左の席の女の子だ。とにかく怪我の多い子で見ていて痛々しい。
サングラスも傷を隠す為と笑顔で。一体何をしてるのか?
危ない儀式をしてないか? 本気で心配になって来る。
「分かりました。異世界のためならどんなことだって! 」
怪我が治り次第参加したいと。その情熱が怖い。
「まあいいや。不定期だけど大体金曜日の放課後に家で開催するから。
夕食会だと思って気軽に参加してくれよな」
さすがに生徒の手前有料には出来ない。
保護者に後で文句を言われたら敵わないしな。
一応は生徒とのコミュニケーションを取る大切な場。
俺のポケットマネーで行うつもり。
これで少しでも英語に興味を持ったり抵抗感がなくなればいいなと思ってる。
誰も来ないのは虚しいもの。治癒次第通ってくれるらしい慈悲深い少女。
これで一人確保。後何人来てくれるかな。
タピオカ部もサマー部もいる。何とかなるでしょう。
金曜日の二人。出会えると信じて。
こうして月・火・土は二つの部を見て回り水曜日は夏部の顧問。
金曜日は英語教室。土曜日にはタピオカ部の引率をこなす。
大変ハードな日程。大丈夫。これくらい大したことないさ。
担任を持たない自由な英語教師。目の前のことに集中すればいいのだ。
タピオカの魅力…… 分かりません。
異世界あるなし…… 賭けならある方にベット。
タピオカ部。
タピオカの原料キャッサバは海外のものでなかなか手頃価格で手に入らない。
我々はそこで代用品としてこんにゃくを使う。
日本ではこんにゃくを代用してる店もあると聞く。
ただ気をつけなくてはいけないのはお客様はそのことを知らない。
いつものタピオカだと思ってる客は違和感でと二度と買わなくなってしまう。
ここはきちんと事前に説明した上で購入してもらうことが大切。
部活動とは言え遊びじゃない。
売場を提供してもらい準備を手伝ってもらうのだから店の人にも感謝を忘れない。
まずそこ。それからは経験を積めばその内分かって来るはず。
そして一番大切なことはお客様の要望に沿うこと。
彼らを満足させなければ完売は夢のまた夢だ。
日々タピオカ研究に精進している生徒たち。
試作品も出来上がった。新商品開発に余念はない。
顧問は口出しせず大人しく見守るのが役目。
だがどうしても心配になり口を挟んでしまう。
「おう皆よくやってるね。新商品開発は順調かい?
月末の販売には間に合いそうかな? 」
追い込まれてイライラしてる部長に対してリラックスムードのその他の者たち。
「先生! この味はいかかがですか? どうしても引っかかるんです」
副部長は背のすらっとしたメガネを掛けた地味な見た目。
地味だがそのアイディアは斬新でスケルトンを唸らせたとか。
副部長考案の最新作が二つ並ぶ。
俺は左のドリンクを取りさっそく味見開始。
続く