デンジャラスゾーン突入!
昨日男から教わった合言葉ではダメらしい。
まさか嘘を教えたのか? だがそんなはず……
男の最後の言葉と不気味な笑みが頭から離れない。
「いつまでもお前らの相手してられないぞ! とっとと出直してこい! 」
門番の一人が吠える。
言ってることはまさしく正論で間違っていない。
だからって引き返す訳にはいかないんだ。
どんな困難にも屈しない。それが異世界探索隊だ。
「みぎひだりでないとしたら…… 」
ほぼ独り言のようにつぶやくと皆が真似をする。
「みぎひだりでないとしたら…… それは…… 」
考えろ。考えて考え抜けばきっと答えが浮かぶはずだ。
もちろん何の根拠もない希望的観測だが。
「先生! みぎとひだりは反対ですよね。こうは考えられませんか?
ひっくり返す。どうひっくり返すかは不明ですがほらこんな風に」
イセタンが紙に書きつける。
さすがは異世界探索部の部長。閃きが違う。
「どう言うこと? 」
「だから後ろから読んでいくって言ってんだよ! 」
イライラ気味のカズトが付け足す。いいコンビネーションだ。
とは言えカズトが我慢できずイライラしてるとなるとここは急がねば伝染するぞ。
俺がいくら冷静沈着で頭脳明晰でも責め立てられたら思いつく物も思いつかない。
『ぎみ・りだひ』
『りだひ・ぎみ』
この二択となった。
どっちだ? 果たしてどっちだ?
もう一つしか答えられないぞ。
迷ってる暇もなさそうだしな。
「どうした早くしろ! 」
生徒に責め立てられ門番にまで急かされたら頭がどうにかなりそうだ。
いくら冷静に冷静にと言っても一種の興奮状態では冷静な判断などできない。
ここはいっそのことミホ先生かイセタン辺りにでも任せるかな?
おっと…… 隊長の俺が弱気でどうする。
だがやっぱり保険は掛けておきたいな。
イセタンに耳打ちをする。
「先生! 」
イセタンには俺が答えると同時にもう一方をささやくように指示する。
そうすれば言い訳ができる。
「おい何をコソコソやってやがる。早くしろ! 」
「えっと…… 」
「何だ? はっきりしろ! 」
怒られてしまった。暇はないとさ。
だがどう見ても暇そうに見える。
「分かりました。合言葉は…… 」
「合言葉は? 」
「ぎ…… 」
様子を見るが表情は変わらない。
『ぎみ・りだひ』
どうだ? 二択とは言えこれで間違いないはず。
「ファイナルアンサー? 」
「ファイナルアンサー! 」
何このやり取り? いらないんですけど。
一分の沈黙。
それに耐えきれずに騒ぎ出す聴衆。
「いや待って…… 」
「正解! 通過を認める! 」
ふう危ない危ない。正解なら正解と早く言えよな。何がファイナルアンサーだよ。
「やった! 」
「イエーイ! 突破! 突破! 」
「青井先生おめでとうございます」
ミホ先生から祝福の言葉をかけられる。
うん感無量だな。これほどうれしいことはない。
二人で進めてきた合宿だったから。ミホ先生もひとしおだろうな。
「よしネクストステージだ! 」
「おお! 」
「行くぞお前ら! 」
「おおおお! 」
力強い返事が返ってくる。
喜びを爆発させる面々。
タオはあまりのことに感激の涙を流す。
ミコもいつも以上に熱心に舞う。もはや踊り狂うかの如く。
監視役のミホ先生までつられて踊ってしまう。
「良かったね先生」
「ああ…… 」
アイとハイタッチを交わす。続けてミルルとも。
イセタンとカズトは上空を確認してから抱き合う。
「さあ早くしろ! 急げ! 急がないと門が閉まってしまうぞ! 」
急かしに急かす門番。俺たちが喜びを爆発させるのが意味不明だと鼻で笑う。
温度差がある。明らかにしらけている。
何をそんなに喜んでいるのかと不思議そう。
門番は食いかけのパンをかじりながら操作する。
「お前たち本気だな? もう戻ってこれんかもしれないんだぞ?
それでもいいのか? 考え直すなら今のうちだ」
念を押して最後の確認をする。
カシャーン
門が完全に開いたところで急いで第二ゾーンへ。
「おい聞いてるのか? 」
「ご心配なく! 」
そんな脅しに屈するものか。俺たちは何としても異世界を見つけるんだ。
こうして第二ゾーン。即ちデンジャラスゾーンに足を踏み入れた。
ははは……
浮かれていてハイな状態に。
開門から一分が経過。
ゆっくりと門が閉まっていく。
退路が断たれた。もう先に進むしかない。
「さあ行くぞ! 」
「おう! 」
こうして第一ゾーンとはお別れ。
第二ゾーンは以外にも第一ゾーンとさほど変わらずに鏡が多く置かれている。
ミラーロードも近くに見える。
分かり切っていたことだけど恐らく誰も住んでいない。
だから一軒の家も見当たらないし声もしない。
人以外の何物かが存在する場所。
それがデンジャラスゾーンだ。
続く