生き残り
「なぜそれを…… いや何でもない」
亭主はそれ以上喋ろうとしない。
怒らせてしまったかな?
「ねえ先生。この人アイたちと同じ…… 」
「ああそうだ。恐らくアイの考えてる通りだ」
だがアイのことだからな。何を考えてるやら。あまり当てにならない。
男が無言を貫くものだから生徒たちが好き勝手に話しだす。
「私たちの仲間みたいなものですかね? 」
「いやいやそうとは限らないよタオ。敵ではないかと」
訂正してこの男の危険性を説く。
「俺は悪党だと思う! 」
カズトも参戦。自信満々だ。
確かに奴はとんでもない悪党に違いない。
「何かを隠してるのは間違いないですよ」
イセタンも遠慮がちに指摘する。
できればそのサボテンを置いてくれたらいいんだけど。
うん? 男は黙ったがただ喋りたくないのではなく気づかせたくないのだろう。
「ほら皆! お店の方に失礼ですよ。せっかく素敵なもの買わせてもらったのに」
ミホ先生は能天気だ。
確かに本来だったら俺を含めた失礼な奴を注意だけでなく説教するのも頷ける。
しかし今俺たちはそんな生ぬるい世界にいない。
外に出れば化け物に喰われる。それがこの島の日常だ。
手掛かりを見つけなければここでずっと危険と隣合わせでなくてはならない。
「あの私この人知ってます。記憶にありますから」
ミルルは店主をじっくり見る。
彼は何とか抵抗しようとミルルを睨みつける。
それでも動じない彼女は睨み返す。おおこれは見ものだな。
それにしてもこの男は一体何を隠してるんだろう?
ミルルには何らかの確信があるようだ。
男は俯いてしまった。完全にミルルの勝ちだな。
「先生。青井先生! 」
タオとミホ先生がほぼ同時に促そうとする。
「確証は持てませんがミルルの言い分から察するにこの方は…… 」
そこで止め皆を見る。これで安心して断言できる。
「行方不明となってる探索隊の生き残りではないかと。そうですねミルル? 」
何の反応も見せない男の顔をちらりと見てから息を吐くミルル。
「はいそうです。この人はアークニン探索隊のメンバーでした」
実際にその時のことを知っているミルル。
これ以上の証人はいないだろう。
「私たちの集落でもこの人が中心で騒いでいましたからよく覚えています。
この人こう見えて騒ぐことが好きで好きで。
町や集落とのいざこざも引き起こしたと当時はそんな風に言われてました。
それから物凄い女好きで嫌らしい目つきで町の女の子を見てて……
それだけでは飽き足らずに手を出そうとまでしていました。
私のお姉ちゃんもこの男に付きまとわれていたんです」
男は一点を見つめる。何とかなると本気で思ってるのかな?
考えが甘すぎる。
「噂を聞きつけたあなたはこの島にやって来て女の色気にやられてしまった」
ミルルの説明は分かりやすくていい。
アイが反応する。
「何それ先生? 女の色香って? 」
アイたちは何を言ってるのか分からないらしい。
「警察呼びますよ」
「こんな辺鄙で長閑な田舎では警察などいるか! 」
「でしたらスイッチを押しますよ」
「それもダミーだろ。
この宝石が偽物であるように。だからブローチの方にしたんだ! 」
貴金属店にて明らかに偽物を売りつけようとする怪しげな人物と接触。
追い込まれて言い訳するがもう限界も近い。
そもそもこんな絶海の孤島で売買して儲けようと色気出す者など普通存在しない。
それでも彼が商売してると言うならそれはもはやこの島の者などではない。
当主唄子様の目の届かないところで商売してるには理由があるはずだ。
彼もまた我々と同様よそ者であり異質な存在。
「旦那も人が悪い。すべてお見通しで。いやはや参ったな…… 」
そうやって下手に出る素振りを見せる。
「この際その辺の細かいことはどうでもいい。俺たちもよそから来た観光客」
「ははは…… そんな風に見えないな。ちなみにどのようなご用件で? 」
警戒してるみたいだ。だがそれは困る。我々には時間がない。
早く第一関門を突破して少しでも異世界に近づきたい。
急がなければそれだけ化け物に遭遇する確率が増える。
遭遇したら間違いなく命はない。あのおばさんみたいに無残にも食われるのだ。
「だからあんたの存在はどうでもいい。
それよりもあんたはアークニン探索隊の生き残りか? 」
「いやその…… 」
「はっきりお願いします」
それでも男は口を割ろうとしない。
これは骨が折れるぞ。
続く




