異世界幻想
異世界探索部。
自己紹介を終え部活動を再開。
議題: 異世界は存在するか?
壮大なテーマで度肝を抜かれる。
いつもこんなことを繰り返してるのか? スケルトンもよく付き合っていたよ。
意外にも生徒想いの良い先生だったのかもしれないな。
先輩変態英語教師へのイメージが少しだけアップした。
とにかく異世界に疎い俺は大人しく耳を傾けることにする。
論戦してるのはほぼ部長と女生徒のみ。他三人は頷く程度。
しかも異世界が存在することを前提に語るから始末が悪い。
存在するならもうこのテーマの結論は出てないか? なぜまだ続ける?
だがそれでもなお熱く語り合う。
二人とその他の生徒では明らかに温度差がある。俺が一番低いけどな。
そろそろタピオカ部に移る時間だな。
三つも掛け持ちしているとゆっくりはしていられない。
出来ることなら二つの部が合同で行えると楽なんだけど。
もちろんタピオカ作りがメインになるが。
両クラブとも意地があるのか頑なに拒む。
まあ気持ちも分からなくもないが他部との交流も悪くない。
「先生はどう思いますか? 」
部長が目を輝かせる。これは肯定しろと言ってるようなもの。
彼らの夢を壊すのは申し訳なく部の存在を否定することになるので何も言えない。
ここは大人の対応で逃げ切るしかない。
それを許してくれるかが勝負の分かれ目。
「異世界か…… 」
「はい青井先生の意見をぜひ聞かせてください! 」
「そうですよ先生! 」
強く迫られるとつい本音が出てしまいそうになる。
あるはずないだろと言えたらな。だが顧問である以上無責任なことは言えない。
もちろん絶対にあるなどと言う幻想も同意しかねるが。ここは慎重に言葉を選ぶ。
「異世界あったらいいね。ただ定義が難しくないか? 」
無難な答えでどうにかごまかす。果たしてこれが正しい答えなのかは分からない。
「先生もそう思いますか? あるんですよ」
勝手に話を進めるが俺はあるとは一言も。そもそもの定義が難しいと述べただけ。
「そうだな。あるかもしれないね」
同調圧力に屈する情けない教師。
傷つけないようにでもおかしな方向に行かないように導くのは楽じゃない。
それが教師であり顧問の務めなのだろうが。
俺には彼らがおかしな考えに陥る前に止める義務がある。手遅れかもしれないが。
「そうですよね先生。ふん! それから…… 」
あれ勢いづいたぞ。これは調子に乗ったか?
お墨付きを与えたようなものだからな。発言には気をつけなくては。
真剣な表情であたかも学問のように探求しようとする部長。
悪いと思いながらもこう考えるのだった。
異世界なんてあるはずがない!
ふざけたことを抜かすんじゃない!
俺からしたらこの異世界探索部こそが異世界だ!
ちょっと言葉が過ぎたかな。心の中だからね。思うのは問題ない。
文献だって見つかってない。権威ある科学誌に論文が載ることもないだろう。
糸理論がいいところ。
こんなところはもうたくさん。もうすぐにでもタピオカ部に戻りたい。
彼らと議論を重ねれば重ねるほど深まることはなく訳の分からない方向へ。
俺の頭が悪くなりそうだ。
最近の高校生はこんなおかしなことに興味を示してるのか?
世も末だな。まだ五月だが例年の暑さで頭がどうかなってしまったのではないか?
真剣にそう思ってしまう。
こんなこと言いたくないけど俺は完全な異世界否定派だ。
「そうだ。君たち英語に興味はないか? 英語は楽しいぞ」
「英語? 学校の授業で充分です」
「そう言わずにさ異世界に行くんだったら当然身に着けておかなくてはダメだよ。
もし良かったら金曜日の放課後に俺の家で本格的な英語を教えてあげるよ。
もちろん学校で教えるようなものじゃない。楽しくより実践的だから為になる筈。
英語教師の俺が言うのも変だけどぜひ。
これもグローバル社会に対応した国際コミュニケーション能力を養うには必須だ。
グローバル社会ってのは異世界も含んだ高度に多様化した社会のことさ。
さあ異世界探索部の皆も一緒に俺とレベルアップしていこう! 」
だが誰一人反応を示さない。まあ当然だよね。面白くないし。
ただの宣伝でしかない。もちろん本気じゃない。それを読み取られてしまったか?
傷つきやすい年頃だからな。もう少し慎重にすべきだろうか。
続く