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肉はちょっと……

どうにか屋敷に戻るとアイが出迎えてくれた。

「お帰り! 」

無邪気なアイ。まったく何も考えてなかったんだろうな。

いや考えることを元から放棄してるに違いない。

本当にバカだな……

それだから余計に癒される。

バカな子ほどかわいいを具現化したような女の子。

今朝のことも忘れて抱き着く始末。

本当にこの子だけはよく分からないんだよな。


「どうしたの先生? 」

どうやらあちらは何事もなかったようだ。

眠気がするほどの平和な日常が繰り広げられていたんだろうな。

ははは…… 良いな。代わってもらえたら。

いやいやこっちだって実際に襲われたのではない。

目の前で無残にも食われたところを目撃しただけに過ぎないのだ。

よく考えれば俺たちはついていたのかもしれないな。

あの人が襲われなければもしかしたら……

うわ…… またおかしな考えに囚われている俺。

ああもうやってられない。

相当精神に来てるなこれは。立ち直れるかな俺たち?


「先生! 早く! 早く! 」

いつも通り騒がしいアイがいてくれて本当に助かる。

「うるさいぞアイ! 静かにしないか! ここは学校じゃないんだぞ」

学校か? 何気なく言葉にしたが俺も恐らく二人も帰りたいんだろうな。

でも今更どうにもなるものではない。残念だがそれが現実だ。

もう後ろを振り返らない。ただ異世界に向かって前に進むしかない。

異世界か…… 何となく花が咲き誇る温かい世界をイメージしたがどうか?

地獄と化した旧東境村から考えてもそんな楽園のような場所とは到底思えない。


結局俺はミホ先生に今回の件を言わなかった。

名もなき第一の犠牲者を追悼することは叶わない。

化け物が第一エリアに侵入したことも報告せず。

仕方ないんだ。余計なことを話せばパニックになる。

俺たち三人だけの秘密に。

本来なら伝えるべきだが言えば良くて卒倒。

悪ければ即刻帰途につくことになってしまう。

それはそれで構わないが何と言っても船がいつ戻ってくるかは定かではない。

クルミの話を信じれば早くても五日後。

そんな状況下で告白すればパニックは免れない。

ここの者はまだ免疫あるからそれほどでもないが生徒たちは狂うのは間違いない。

記憶の奥の奥に強引に封じ込めるしかない。


彼女は浮かれていたんだ。

仕方なかったんだ。

助けるなど俺たちには不可能だった。

思いがけない一瞬の出来事だからな。

「先生。顔色悪いよ」

アイの一言に固まるがすぐにいつも通りを演じる。

「ははは…… 何でもない。何でもないよアイちゃん」

「だからちゃんはやめて! アイを馬鹿にしてるでしょう? 」

「ははは…… してるかもな」

「もう先生ったら! 」

どうにかアイを誤魔化す。


夕食もロクに喉も通らずに半分以上残してしまった。

肉はやっぱり無理だよな。

イセタンなど疲れたと夕食に参加せず籠る始末。

カズトも肉に手をつけなかった。

ミホ先生は様子が明らかにおかしいことに気づいてるが敢えて黙っているよう。

ははは…… 当然気づかないはずがないよな。


その晩ミホ先生の追及を受ける。

「何かあったんですか? お食事も残し今もそうして震えて目も泳いでますが。

どうしたんですか青井先生? 」

「いえ何も…… 少し疲れたのかな? 寝れば明日にも一発で……

そうだ一発ついでに一緒に寝て頂けませんかミホ先生? 」

こんな状況ではあるがようやくはっきり言えた。今まではそれとなくだったが。

これで俺たちにも進展があるのかな?


「ふざけないで! いい加減にしてください! 」

怒らせてしまった。これはまさか本気か?

あーあやってられないよ。ちょっとふざけただけなのに。

「いやそうじゃなくて…… いえそうであるようなないような…… 」

下手な言い訳でミホ先生を困らせる。


「ハイ? 」

「俺は良いんです。我慢すればいい。でもあいつらが心配だ。

だからあいつらと一緒に寝てあげてくれませんか? 」

別におかしな意味で言ってるのではない。

暗闇になれば二人はまたおかしくなってしまう。だから他意はない。

ただ心配して言ってるだけ。


バチンと来て最低で締める。

ミホ先生も相当参ってるとようだ。

ちくしょう。今日はそんな体力残ってないよ。

誰か! 助けてくれ! あの化け物以外なら誰でもいい。

だから俺を助けてくれ。生徒たちを助けてやってくれ。


ミホ先生にまで嫌われるとは踏んだり蹴ったりの一日だな。

そう最低の一日である。

もう今夜は相手に出来ない。

いくら誘われようともう知らない。

俺は知らないんだ。

恐怖で震えるだけ。


ガタガタ

ガタガタ

なるべく二人には気づかれないように布団を被って震える。

もう眠ることさえできない。

目を閉じると昼間の光景が蘇ってくる。


                 続く

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