合言葉
「もう先生ったら早く! 」
いつの間にかアイの姿が。
「よせって。まだ眠い…… 」
「そんなこと言わない! 」
有無を言わせないアイ。
無理矢理起こそうとするのでつい抵抗してしまう。
手を掴んだつもりが小さな可愛らしい胸を鷲掴みにしたようで怒り狂う。
「いや待ってくれアイ! お願いだアイちゃん! 」
どうにか許しを請おうとするが怒りが収まる気配がない。
困ったな…… 本当にどうしたらいいんだ? ただ滑っただけだろうが。
「先生! もう知らない! 」
「いや誤解だ。わざとでは決してない。そんなことせずとも昨夜はあれだけ……
うわまた余計なこと言ったか? でもこれだって生徒を守るための行動って奴で。
「まさか先生そんなことしてたの? もう知らない! 」
うわこれで口を利いてもらえないのが確定。
アイは出て行くし二人は訝しがるし。なぜこうなる?
「ははは…… 良い朝だね。さあ行くか」
笑って誤魔化す。
旧東境村三日目の朝を迎える。
異世界捜索は二日目。
今日こそは何としても手掛かりを見つけるんだ。
ミラーロードを抜け昨日回れなかった家々を一軒ずつ丁寧に当たることに。
この島では商売人以外はほとんどが女性である。
店の男も基本は体力のないような爺さんがほとんど。
服屋のようにおじさんもいるがそれは稀。
若い女性が多いのがこの島の特徴。少々不思議な感じがするが。
東常冬町にしろ集落の者にしろ若い女性が少ないのはここに留学してるから。
「異世界の扉がどこにあるか知りませんか? 」
「あんた何を言ってるの? そんな話したら唄子様の逆鱗に触れますよ」
だから教えないそう。と言うことは知っているのか?
これはダメだな。詳しくてその上お喋りな人を探さなければな。
「あんたらミルクちゃんの知り合いなの? 」
ミルクを知る者は協力的なはず。これは何か掴めるか?
「はい我々の仲間ですね」
「だったらクルミの所在知らない? 」
どうやらこの女性はクルミの方の知り合いらしい。当てが外れたかな?
「はい。元気にしてますよ。すごく元気ですね」
「それは良かった。突然いなくなっちゃったから心配してたんだよ。
その様子だと集落に戻ったんだね? 」
「ええいろいろありまして」
「そう。だったら答えてあげてもいいか」
クルミの無事を知り気持ちを良くした彼女はゆっくりと話し出す。
「ぜひ異世界への扉について教えて頂けませんか? 」
「そうね。この島のどこかに異世界への入り口があると聞いてます」
うーんこれだけ? せっかくクルミについて語ったのにな。
単なる期待外れだ。誰も彼も似た様な話をするばかり。
仕方なく家の中の案内をお願いすると心よく引き受けてくれた。
しかし当然だが家の中には決して異世界の扉があることはない。
手掛かりになるものもなさそうだ。完全な無駄足と思われた。
一人の口の軽そうなもう若いとは言えない女性にたどり着く。
「このごみごみしたところを抜けると関所みたいなのがあってさ。
実はここを通り抜けるには合言葉が必要なのさ。
決して誰も教えはしないがこの村、島に関係ある言葉らしいんだ。
その合言葉を言うと門を開けてくれて第二ゾーンに進むことができるのさ。
ふふふ…… これも私みたいな口の軽い者からなら聞きだすことも可能だろうよ」
自分が悪いのではないと言いたいのかただ感謝して欲しいから述べてるのか?
もちろんこれだけの情報をいっぺんに得られるのは大変貴重なこと。
それこそ感謝しても感謝しきれない。
「実はさ…… 私はもっとすごいことを知ってるんだ。
当然タダでは教えられないね」
うわこれは吹っ掛けられるな。
「別にそこまでは…… これ以上は悪いですから」
裏切り行為だから。罪悪感があるはず。だからあまり多くを聞かないようにする。
それが優しさと言うもの。もちろん勝手にしゃべるのまで止める必要はないが。
「五十イント。三十…… 十イントでいいからさ」
勝手に値下げを始める女性。
「あの本当にもう結構ですから」
突き放す。もう充分だと分かってもらえたかな?
「よし分かった。もう十でいい。さあさあ十イント出しな! 」
二人はイントなど持っていないので判断を委ねる。
さあどうするかな? これくらいいいだろう。
「分かりました。お支払いしましょう」
「うんうん。いい子たちだね。商談成立だ! 」
さっそくイントボックスに十枚入れる。
これで極秘情報をゲット!
続く