誘われる者たち
午前二時。
おいで おいで
再び聞こえてくる悪魔の誘惑。
やはり昨夜のあれは夢ではなかったらしい。
夢であってくれとどれだけ願ったことか。
でも事実は違った。
たとえ俺がどんなに否定しようとも意味をなさない。
おいで おいで
どこまでもどこまでも。耳を塞いでも聞こえてくる。
誘う声。俺にはとても抵抗できない。
逃れられない。逃げ切れない。
汗が…… 汗が止まらない! 冷たいな。これは冷や汗か?
おいで おいで
あれおかしいぞ。まさか俺にではないのか?
シグナルは限定されてない。
それどころか俺が勝手に受け取ってしまうからおかしなことに?
狙いは恐らくこの二人。
しかし俺とこいつらにそれほどの違いはないはず。
一体奴らは何を企んでやがる?
いやまさかね…… ははは…… あり得ない。
だが俺の推測通りだとしたら? 絶対に阻止しなければならない。
俺は彼らをあらゆる者から守る義務がある。
おいでおいで
隣に寝ていた二人が突然むくっと起き上がる。
二人は気づいてるのか?
それとも無意識に誘われるのか?
おいでおいで
行ってはダメだ!
行ってはいけない!
行くな! 行くな! 行くな!
決して行ってはいけない。それが分からないのか?
ダメだ! ダメなんだ!
分かってくれ二人とも。行ってはいけない!
今までの二人ではない。
もう止まることも止めてやることも出来ない。
うんこれは……
お香の良い香りだ。実にいい。心が落ち着くな。
目を擦り立ち上がる。
うーん仕方ないな。取り返しのつかなくなる前に手を打つしかなさそうだ。
おいでおいで
二人は音の方へ。匂いの方へ。
誘われていく。止めることの出来ない現実。
行ってはダメだ! 絶対にいけない!
誰か来てくれ! こいつらを! こいつらを早く!
もちろんこんな時間に誰も来やしない。皆寝てるだろうな。
それでも最後まで抵抗する。それが教師だ。
行くな! ダメだ!
行ってはいけない!
先生の話を聞くんだ!
おいでおいで
二人は歩き出した。
俺はついて行く。
それが教師であり引率者の役目。
部屋を三つも四つも超える。
明かりが漏れている。
この部屋か……
匂いもする。うん間違いない。この部屋だ。
二人はこの部屋へ誘われていく。
おいでおいで
おいでおいで
無意識に誘われる若者二人。
俺が代わってやれたらな。
二人とも自分の意志で動いてるのではない。とても危険な状態。
何が起こる? 何が起きてもおかしくない状況。
どうにか二人の体を反転させることができた。
これにより危機を脱する。
二人は大人しく戻っていく。
部屋へ。俺たちの部屋へ。
それでいい。それでいいんだ。
しかし再び誘いの言葉が。
おいでおいで
昨夜と同じ展開。まったく同じ。
ここは意を決して部屋へ。
「何でしょうか? 」
「一緒にお願い…… 寝てくれませんか? 」
懇願する恐らくはまだ若いであろう女。十代?
「本当に俺でいいのか? 人違いではないのか? 」
たが何も発してくれない。
「君が呼んだんだろ? 」
だがやはり何も反応してくれない。
げげげ! もうすでに裸になっている。
何てせっかちなんだろうか?
手順を踏まずに大胆に攻めるその積極性は先生嫌いじゃないぞ。
おっと…… 何を考えて何を間抜けなことを言ってるんだろう?
止めるべき立場の人間だと言うのに抵抗できない。
布団で待機中の少女。
哀れな姿。なぜかそう感じる。
止めろ! 止めろ!
止まれ! 止まれ!
ダメだ! ダメだ!
ダメだ! ダメなんだ!
もうダメだ! もう無理だ!
まだあどけなさの残る少女。
懸命に何かを訴えてる。
「さあここに。さあ早く! 」
ダメだ! ダメだ!
止まらない。もう止まらない。
「あああ! 」
一度入れるともう一度。もう一度と。
こんなにも激しいものなのか?
「いや! 」
「きれいだ。本当にきれいだよ」
ふう…… もう限界だ。
目が覚めると隣に眠っていたはずの少女はもういない。
あれ? 何だか鼻が詰まったような気がする。
気のせいだろうがお楽しみが影響してるのか?
急いで自分の部屋へ。
「先生! 」
二人に起こされる。
「うーんもう朝か? 何か言った? 」
「先生寝ぼけてないで早くしてください」
「まだ全然寝足りないよ。異世界は逃げたりしないって。
もう少し寝かせてくれよな。寝不足でどうしようもないんだからさ」
冒険者にとって睡眠はとても重要。
生徒たちにもその都度話したはずだがな。
『睡眠の重要性』
「お前たちもう少し寝てようぜ」
「先生早く! 」
二人が迷惑そうに見ている。
いや俺はお前たちの為に自らの体を犠牲にしたんだぞ?
それはもちろん俺がしたくてしたんだしお前らには理解出来ないだろうがな。
でも俺は二人を守ったと信じて疑わない。
俺は正しいことをしたんだ。
続く