恐怖の夜 誘う女の声
当主・唄子様の許しを得て通称・鏡の館に滞在することになった。
初めての夜を迎える。
出来るなら何事もなく過ぎ去って欲しい。
だがそんなはずもなく恐怖の夜を迎えることになる。
おいでー
おいでー
女の囁く声が聞こえる。
まさか幽霊?
化け物?
この際幽霊は歓迎だ。悪さをするのは稀だ。
だが化け物は違う。俺たちを喰い殺す。
それともまさかまさかの人間なのか?
それはそれでどう言う意図があるのか気になるところ。
時刻は二時。
あれから四時間以上寝た計算になる。
もうすっかり眠気も取れた。
さあ早朝散歩でもするかな。外は真っ暗だけど。
そんな冗談言ってられない。
おいで!
おいで!
聞こえる。強く聞こえるぞ。
俺を地獄に誘う女の声が。
幻聴か? 聞こえてるからそれは正しい。
幻覚か? いや影も形も無い訳だから幻覚には当たらない。
人間か? 人間でないと困ります。
横でイビキを掻いていた二人がむくっと立ち上がる。
音を頼りに部屋の外へ。
どうやら無意識らしい。しかし目の前で見せられると恐怖でしかない。
おっとまずい。なぜ生徒を行かせてしまったんだ?
イセタンもカズトも俺の可愛い生徒だ。さすがにこのままと言う訳にはいかない。
どうする? 考えろ? ここで大人しく帰りを待つのも怖い。絶体に嫌だ。
仕方なく追い駆けることにした。
ふと気がつくと隣の隣の部屋に女の姿があった。
まさか俺だけが見えてるとか?
寝ぼけて通過して行った二人を無視して正体を探ることに。
おいでー
おいでー
寝間着姿の女性の太ももが露わになる。
これは耐えられないほどの衝撃。
早く来てと誘っている。うわ…… 危険な展開。
これでは抵抗できない。ただ為すがまま。
「あの…… 何か御用でしょうか? 」
間抜けにも質問してしまう。これでは相手の思うつぼ。
このパターンは知っている。絶対にまずい展開。
心ではダメだと分かっているがどうしても体が言うことを利かない。
「いいから早く」
どうして分かり切ってると言うのに従ってしまうのか?
言われるまま。抵抗できないのだ。いや抵抗したくないのだ。
体が勝手に。もう俺は俺ではない。ただのどうしようもない女好きさ。
だがそれでも何とかもがく振りだけはする。
まったくの無駄だと分かっていても時間稼ぎぐらいにはなるだろう。
「あなたは本当に人間? 妖怪の類? 」
仮に妖怪でも正直に言えない。
いや待てよ。正直に言えないのなら人間か。
人間は嘘を吐く動物だからな。
だとすれば危険はない?
おかしなパラドックスに陥る前に思考を停止して無になろう。
常に無になればいい。そうすればおかしな感情など湧かない。
「失礼ね。人間よ。人間! 本当に失礼しちゃう! 」
「申し訳ない。つい…… 」
ここは下手に出て様子を見るとしよう。
俺に危害を加えるとは到底思えないしな。
それに体が勝手に反応してしまっている。
「ふふふ…… 今証拠を見せてあげる」
そう言ってゆっくりゆっくり着衣を脱いでいく。
「さあ来てお願い! 」
おいおいもう金曜日の到来かよ? いくら何でも早すぎないか?
俺はどこまでも行くぜ。冒険家だからな。
「さあ早く! どうしたの? 」
若く美しいその少女の裸体は衝撃的った。
吸い込まれると表現したらいいのだろうか?
名も知らぬ若き乙女の肉をかぶりつく。
「ねえ言葉はないの? 」
「ああ綺麗だよ」
「ふふふ…… それだけ? 」
「ああ好きだよ」
「会ったばかりなのに? 」
少女は揺さぶる。かなりの技術を持ってるな。
「関係ない。それとも君は嫌かな? 」
「嬉しい! もっと言って! 」
「好きだよ。大好きだよ! 」
男は常にこの言葉を投げかけて安心させる。
それがいつもの手。テクニックでもある。
止まることのない男の欲望とただ求めるだけの打算なき女。
夢か? それでも構わない。
幻か? こんなにも感じると言うのにそれはあり得ないだろ。
何度も何度も。
それこそ何度も何度も何度も。
決して許されないとしても。
男はまっしぐら女の元へ。
ことが切れるまで。
数えるのも大変なほど
それはもう誰にも止めらない。
止めてはならないのだ。
決して止めては……
ようやく眠りにつく。
朝を迎える。
早くせねば見つかってしまう。
ほぼ無意識で。
どうにか到着。
二人も戻っているようだ。
おやすみなさい。
これで起きた時にはすべて忘れてるはずさ。
続く