化け物の弱点
唄子様の話を聞き恐怖のあまりズボンを濡らすイセタン。
しかし恐怖で震えるのはさすがに早すぎないか?
もっと具体的に話を聞いてからでも遅くない。
ただこれ以上聞けばこっちも危なくなってくる。
もうこれぐらいで切り上げるのが精神衛生上良いと思われる。
それでもここで止められないのが人間の性。悲しき性って奴だ。
「よしもういいね? 始めるよ。この化け物はそれはそれは恐ろしいぞ。
でもね一つ弱点があって…… はい誰か分かる者はいるかい? 」
唄子様からの突然の質問に生徒たちは困惑するばかりで何も答えようとしない。
ミホ先生も無言を貫く。そうすると必然的に俺になってしまう。
まあ誰も答えようとしないのであれば仕方ないか。
さすがに俺まで答えなければ機嫌を損なってしまうものな。
「そうですね。恐らくこれだけ鏡があってミラーロードもあるとなると…… 」
「実はこの化け物は鏡に弱いんだよ」
俺が答えてる最中だと言うのに我慢できずに。
どれだけせっかちなんだろう? 付き合ってられないよ。
「一分。心配だったら二分も鏡を当て続ければ消滅してしまうだよ。
そして反射光にも弱い。逃げ出してしまうんだよ。
だからこの鏡は化け物から遠ざけるおまじないなのさ」
異世界からやって来る化け物。
人間の力では到底及ばないにしても弱点があった。
それが鏡。これさえあれば消滅させることも可能。
唄子は何も言わないがこれは先人たちの多大なる犠牲の元に生まれた英知の結晶。
我々は運良くそのからくりを知ることとなった。
「そうだよ…… おっと失礼しました。鏡が弱点だと言うのはよく分かりました。
一体その化け物はどこからやって来るんですか? 」
問題は化け物の数と遭遇確率に例外がないか。そこが気になる。
捕まったり食われたらお終いだから慎重にもなる。
「だから異世界だよ」
「異世界ですか…… それではもう何個か。化け物は今どれくらい? 」
「さあね。この島には百匹はいるんじゃないかい? ほれお前の後にも」
「うぎゃああ! 」
「冗談じゃ。冗談。ここは鏡があるから寄り付かないっての」
だからこそこの屋敷は金ぴかで近くにはミラーロードがあると言うことらしい。
ただ本当にそのまま信じていいか大いに疑問が残る。
何にでも例外があるはずだ。
「そのおまじないの鏡ですが例外などありませんよね? 」
「例外か。恐らくないだろうが一つ気になることがある。
異世界に行くには純粋であること。
それが関係してるのか純粋でない者の力が及ばない場合がある。気をつけよ。
もちろんこの辺りにいれば例外に遭遇することはないしどうにでもなるさ。
例外まで気にしてる余裕はないと思うだよ」
例外とはまず起こらない事象のこと。だから例外なのだと言うのが持論だそう。
しかしまずいな。俺は一番危険な状況にある。絶対に単独行動は控えなくては。
「我々はその異世界を探してるんです。ぜひ教えて頂けませんか? 」
無茶だと知りつつお願いしてみる。
「そうか…… いつかそんな風に無礼な奴らが来ただよ。
分かったわ。教えてやりたいが実は私は知らないからね」
まさか本気か? ここを統治する当主様だろ? 俄かには信じられない。
「だってまさか…… 知らないはずないでしょう? 」
「本当だよ。こればっかりはどうしようもないのさ。
自分たちの手で突き止める。それしかないだよ」
厳しいが当然のこと。アドバイスをもらえただけでもラッキーだ。
パンパン
パンパン
「ゆっくりしていくだよ」
案内をつけてもらう。
唄子は何かを隠してるのか無理矢理話を終わらせるように打ち切る。
「ちょっと待って…… 」
「話は案内の者からでも聞くといいだよ」
そう言って部屋を後にした。
さあこの後どうしたらいいかな?
取り敢えず案内を受けることに。
「案内役を務めさせていただきます鏡子でございます。
それではどうぞこちらへ」
鏡子さんは大変美人で育ちもよさそうだ。
これなら俺の恋人にしても申し分ないだろう。
まずいな。ミホ先生とアイが睨んでる。
うわタオまで。心の声をなぜ受信する。
単なる妄想じゃないか。
続く