スケルトンの置き土産
「君! いや君たち! スケルトンはまだ亡くなってなんかいない。
ただ遠い世界の住民になっただけだろう? 違うか? 」
敢えて確認する必要もない。スケルトンから一週間に一回は連絡がある。
今も海外で羽根を伸ばしている。実に優雅なものだ。俺が代わりたいぐらい。
ロンドン留学から一ヶ月。
さすがにいくら英語教師でも現地では苦労することになる。
それはもちろん言葉もそうだし文化の違いだったり食生活だったり。
何もかもが違う。それに慣れるのに数ヶ月は掛かる。
大人の俺たちがそうなのだから生徒はその倍いや三倍は必要になる。
積極的に行動することが成功の秘訣。ネガティブではなくポジティブに。
帰ってくる頃にはペラペラ。実際にはそう感じるだけで一年では到底無理だろう。
ロンドンに長期旅行しただけになる。
おっと…… 今は現実逃避してる時じゃない。異世界探索部だ。
どっちが現実逃避してるか分からない気もするが。
それにしても異世界探索部など聞いたことがないぞ。
タピオカ部もそれは同様。サマー部だって。
ただそれを言ったらシカ部等全国にはおかしな部活や同好会があるものだ。
時代は変わったんだろうな。納得するしかない。
いや待てよ…… そもそも存在するのか?
だって…… 隣の部室は不気味たが人の気配などなかった。
「そんなことはどっちでもいいんです! 部長も何とか言ってください! 」
「先生落ち着いて。本当に何も? 」
首を振り否定する。
その様子を大笑いしながら見守る困った少女たち。
俺は彼女たちに騙されてのか? それともスケルトンに騙されたのか?
二択だがたぶん間違いなくスケルトンの方だろう。
幼気な少女たちに嘘偽りはないはず…… 信じたい。スケルトンは信じたくない。
だとすれば異世界探索部なるものは実在し俺が顧問させられる羽目に。
冗談じゃないよ。サマー部との掛け持ちだって大変なのに三つもってありか?
スケルトンめ。とんでもない置き土産を置いてきやがって。
帰ってきたらただではおかない。
ゲラゲラ
ゲラゲラ
元お嬢様学校とは思えないほどの下品な笑いについ頭に血が上る。
「お前たちは由緒正しい学園の生徒だ。もう少しそこのところを弁えるんだ! 」
つい厳しく当たる。これも彼女たちの為。もっともっと厳しくしてやる。
もちろんただの八つ当たりだが悪いのは俺じゃない。
何も教えずに海外に逃亡したスケルトン。
あの先輩変態英語教師にすべての責任がある。
一体俺にどうしろと言うんだ? タピオカ部だって満足に指導できないのに。
異世界探索部など手に余る。
大人しくなったところで課題に取り掛かる。
「それで話を総合するとタピオカ部と異世界探索部の顧問に就任したでいいか?
サマー部もあるが」
「はい先生。では隣の部室に移動願います。まだ自己紹介されてませんよね? 」
部長が促す。ほぼ強制みたいなものだが。
本来なら当然挨拶ぐらいするもの。でも俺はまだ覚悟が出来てない。
このまま聞かなかったことにして帰りたい。
無性にそう思えてくる。情けないがそれでも認めたくない。嫌なものは嫌なのだ。
教室を出て廊下へ。
本来部室間の移動は自由なのだが残念ながら鍵がかかっており今は出入り不可。
それに初登場ぐらい表から入るのがスジ。
ただこのまま逃走するのも悪くないな。本当に逃げてしまおうかな?
逃げてお家に帰り布団を被って眠ってしまえば夢だったことになならないか?
それか一ヶ月遅れのエイプリルフールってことで許してくれないかな。
未だに現実を受け止めきれずにいる情けない教師さ。
夕陽も落ち本格的な闇の到来。外はもう真っ暗。
やはりお家に帰るべきでは?
隣の部屋からは微かに物音が聞こえる。
そう言えば明かりもついてないではないか。
もう帰ったのかな? だがそれでは物音の説明がつかない。
私は心の中でこう思うのだった。
タピるだけだと思ったのに!
タピオカ部だけだと思ったのに!
あのスケルトン…… ハメやがったな!
だが恐らく心では収まり切らず叫んでしまったらしい。
続く