鍵守家当主唄子様
ミラーロードを抜けると大きな館が見えてきた。
もちろん白いモヤが掛かってるため部分部分しか見えてないが。
それでもその大きさと言うか威圧感にただただ圧倒されるばかり。
声も出ないほど。ここにどれだけの者が生活を共にしてるのか?
想像もできない。
「さあどうぞ。お進みください」
我々を招き入れたと言うことは敵ではないと分かってくれた?
「お邪魔します」
皆叱られたからか大人しい。
うん? 十…… 百……
数えきれないほどの部屋がある。
ははは…… まさか旅館でも始めるつもりか?
あまりジロジロ見ては失礼なので前を見ることに。
とにかく失礼のない様にしなくてはな。
廊下を一直線に。
大体一キロは歩いただろうか?
ようやく奥の部屋が見えて来た。
さあ通されたぞ。これで我々は正式に認められたことになるのかな?
それでも油断できない。
金色に飾られた豪華な部屋全体。
いや大げさに言えば屋敷全体と言っていいかもしれない。
とにかくその眩しさは凄まじいもの。
眩しくて眩しくて目を開けてられないほど。
主人の感性が疑われるような色使いだ。
本当にこれでいいと思っているのだろうか?
「これは…… 」
凄いとただ呆れるばかりの生徒たち。
どれだけの金持ちなんだよ。
でもおそらくそれだけではないんだろうな?
ミホ先生も大きく口を開けている。
田舎者みたいでみっともないですよ。
「ようこそ」
豪華のレベルを遥かに超越した贅の限りを尽くした建築物。
悪口の一つでも言ってやろうかと思ってると女性が姿を現した。
まるで女神様のように美しい。輝いておられる。
「久しぶりのお客さんだね。それも団体さんだよ。私はこの屋敷の主人だね」
癖の強い語りの老婆。当主と言うだけあってどことなく気品と威厳がある。
もちろん彼女は女神様ではない。隣の女性だ。
横で補助をする女性。侍女だろうか?
美しい。何て美しいのだろう? 魂が抜けるとはまさにこのこと。
おっと主人に目を戻そう。
随分年を食ったお婆さん。若くても八十代かな?
もしかすると百を越えてる可能性すらある。それはそれでめでたい訳だが。
「ご主人様! 」
「よい。自分でやれるわ! 」
重そうな足をゆっくりと動かし座布団の上で正座。
これはさすがに百は行ってないな。
着物の着こなし方からしてモダンだ。
うん八十代後半と見た。
「私は鍵守家の当主の唄子だよ。
あなた方の名前は何というのかな? 」
どうやら自己紹介せよとのこと。
「これは大変失礼しました! 自分は青井サプロウタ。こちらは…… 」
一通り紹介する。
「眩しい…… 」
「気持ち悪いよ先生」
おいおいこんな時に我慢しろよ。
機嫌を悪くされたら俺たちの命はないんだぞ?
分かっていたことだが思っていた以上に拒否反応を示す。
これでは集中できないし前に話が進んで行かない。
「あらごめんなさいよ。ほらここは鏡の島って言われるぐらい鏡が多いんだ。
それ故反射させる為にすべての部屋がこのような作りになってるのさ。
言っとくけど自分の好みじゃないんだよ」
金ぴか女みたいに言うなと。
「そうですか。そこまでして家中を反射させて何の意味が?
何かのおまじないですか? 」
疑問を口にしてみる。もちろん俺は本気ではないのだが。
「ははは! 良い考え方だよ。そうそうおまじないなんだよ。
何のおまじないかって言うとね…… 分かるかい? 分からないだろう? 」
俺に問うが当然首を振る。
そして次にミホ先生に。
ミホ先生も思いつかない。
「まさか…… 」
鋭いミコだけは閃いたようだ。
おまじないである以上それは良いことでなければ悪いこと。
「へへへ…… そうさ。異世界から湧き出た化け物から身を守るための道具。
化け物から身を守るためのおまじない。
「化け物? おまじない? 」
「まあまあ落ち着きなって。ほらお茶でも飲んでさ」
そう言うと老女は一口で飲み干してしまう。
熱くないのか? どうもおかしな人だな。
失礼のないように我々も倣う。
うん…… 温い。通りで一気飲み出来る訳だ。
「よし落ち着いたね」
「待ってください! 」
震えが止まらないとイセタンがせっかくの高級茶をこぼしてしまう。
運が悪いことにズボンが濡れてしまった。
「ああ…… お漏らししてる! 」
口の悪いのは常にアイ。
「いや違うんだこれは…… 」
「ほれ! 大人しくしておれ! 」
着替えを用意するか聞かれたがいいと答えるイセタン。
ほんの少しかかっただけだから問題ないそうだ。
恐怖のあまりに震えるにはまだ早すぎないか?
まだ詳細を聞いてない。ブルブル震えるのは続きを聞いてからでも遅くない。
続く