刺客 ミルクを狙う者
「本当にそれでいいの皆? 」
不安と不満を口にするタオ。恐らくこの中で一番冷静なのは彼女。
当然だがタオはタピオカ部。しかも俺が無理に頼み込んでついて来たようなもの。
そんな彼女の意見は尊重したい。
「そうだぞお前ら! 無理をするな。ミホ先生はどうですか? 」
「はい。異世界はもう目の前です! 」
いつの間にかミホ先生は俺よりも熱心な異世界肯定派に。
もう異世界を見つけることが使命になっていると言っても過言ではない。
本当にこれでいいのか疑問だが巻き込んだ手前どうしたらいいものか……
「カズトは? 」
「はい。行かせてください! 」
即答する。これは何も考えてないな。
「だったらイセタンは? 」
「愚問ですよ先生。我々は異世界に行かねばならないのです」
当然と言えば当然か。異世界探索部は反対するはずがない。
「ミコ…… 」
挨拶代わりにおかしな舞を披露する。今まで特訓した成果だとか。
ははは…… これは聞くまでもないな。
「そうだ。アイはどうする? 」
この子はそこまでの強いこだわりはないよな。
「先生と…… 」
そこで止まってしまう。さほど難しい質問でないのだからはっきり答えて欲しい。
「はあ? 聞こえんぞ? もう一度! 」
「だから先生と一緒にどこまでも! 」
気持ちは伝わった。でもなぜか怒ってますけど? 本気か?
「アイさん…… 」
ミホ先生が何かを悟ったらしい。
いくらなんでも遅すぎないか? 今さら? 鈍感なミホ先生だぜ。
「もう! 私だって先生と行くもん! 」
タオらしからぬ幼稚さ。
まだアイと張り合うつもりらしい。
「それで人気の青井先生はどうされますか? 」
嫌味を言うミホ先生。どこまで本気か分からない。
まさか嫉妬? 困ったな。ははは……
「もちろん俺だって異世界に行きますよ。当然じゃないですか」
引率者はどこまでも付き合うもの。
「ミルクさんはどうしますか? 」
一応聞いておく。この場合数には入らない。
なぜなら彼女はまだ日が浅い。だから仮に反対されても引き返すことはない。
どうもそのミルクの様子がおかしい。
「お姉ちゃんは? クルミお姉ちゃんは? 」
動揺するミルク。当然か。姉がいるからこそ心強かった訳で。
いくら仲間がいても寂しいものだろう。
「彼女は自分の役目を果たし行ってしまった」
そんなと落ち込むミルクに胸を貸してやる。
少しは男らしいところも見せてやらねば彼女の好意を得ることは出来まい。
何と言ってもこの旧東境村の道案内が出来るとすればそれは彼女に他ならない。
多少ミルクにも興味がある。
姉妹を食べ比べるのも悪くないと本気で思っている。
もちろんそんな日が来ることはないだろうが。
妄想は誰にでも許されるもの。
それこそ二人はもうしてるのではないだろうか?
イセタンもカズトもモテないからな。
それにミルクはとても可愛らしいだけでなく従順であり頭も良さそうだ。
ミルクだけあって胸も想像以上に大きい。
別に大きいから良いとかではなく見た目とのギャップがある。
不思議な魅力を兼ね備えた少女。
この中で一番幼い。
アイやタオよりも話しやすいところがあるから二人もきっと狙ってるだろう。
おっと…… 俺は一体何を考えてるのだろう?
これもおかしな空気のせいだろうなきっと。
「さあ泣くな! また会えるさ。迎えの時にでもね」
「でもでも…… 少なくても一週間は無理です…… 」
そう言って顔を覆ったのでタオたちが励ます。
「先生? 」
「ああ二人とも元気づけてやってくれ」
「もう大丈夫です」
どうにか泣き止んだミルク。
「一週間と言ったな? 君はどれくらい知ってるんだ? 」
「それは…… 」
「ミルク。ここでは君が頼りだ。知ってることをすべて話して欲しい」
もう彼女も立派な異世界探索隊の一員。
我々の為にすべてを捧げてもらいたい。それが恐らく彼女の隠された役割。
「私の知っていること? 渡しの船が一週間に一回。これは祖父の話から。
姉もそれを引き継いだようだからあと一週間は戻らない。
それからこの島には集落を中心とした家の娘たちが留学してることぐらい。
私は祖父の面倒もあるし何て言っても近づくなと言われていたから。
でも若い女の子は皆行くから私もすごく憧れて……
今は思い切って来てみて良かったと思ってる」
「だったら話は通じると? 」
「はい。お友だちも多いのでこの島で出会えたら嬉しいな」
どうやら恐怖や悲しみは消えたらしい。
笑顔も見えた。これでうまく行くだろう。
続く