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喪失

サプロウタ、ミホ、イセタン、カズト、ミコ、タオ、アイ、そしてミルク。

八名となった異世界探索隊はついに旧東境村へと旅立つ。


もう決して戻れない。

この船に乗ってしまえば引き返すことは不可能。

泣こうが喚こうがその現実は変わらない。

今現実と虚構が入れ替わろうとしている。

我々が当たり前に過ごしてた日々は過ぎ去り容赦ない非現実が襲い掛かってくる。


多くの者は異世界に理想を求めるだろうがそんな甘いはずもない。

当然そんな理想はくそ喰らえだ!

我々はある意味そんな理想に逆走している。

ただただ理想なき世界で完膚なきまでに叩きのめされるだけ。

異世界はのほほんとした理想郷などではない。

苦しくて冷たい孤独で寂しいある意味地獄の残酷世界である。

その玄関口である旧東境村も当然その影響を強く受けている。

目標の異世界はすぐそこに迫ってると見ていい。

後はその異世界に到達するかあるいは……


「何だあれは? 」

薄気味の悪い白いモヤモヤ。

まさかあんなところを通り抜けなければならないのかよ。

冗談じゃない。視界を奪われたらお陀仏じゃないか。

こんなところに行くのは無謀なギャンブラーぐらいなものだ。

俺は堅実な英語教師。無理だって絶対。


「先生…… 」

「青井先生」

俺以上に不安がる生徒たち。今にも泣きそう。ミホ先生まで震えている。

励ましてやるのが教師である俺の役目であろう。

「心配するな。大丈夫だ! 怖がったら負け。ははは…… ただのこけおどしさ」

パニックにならないように何とか落ち着かせようとするが無駄のよう。

怯えた目を向ける。無言で訴えかけている。まあ初めてのことだからな当然か。

ここが第一関門ってところか。まずはここをどう乗り越えるかだ。

だが皆が皆そんな風になったら俺だって…… ほら膝がガクガクしてきた。


「あんたも大変だな青井先生? 」

クルミがからかう。こいつは俺がビビってるのを見抜いている。

だからそれを面白がってるのだ。悪趣味な奴め。

たとえ俺が震えてようが泣いてようが落ちつかせる者がいなければ。

彼らは脆い。簡単に精神が崩壊してしまう。

大体お前が何とかするべきだろうクルミ。そうだろ船長さん?


船は白いモヤに向かって突撃。

さあ勇気を出して受け入れようじゃないか。

恐れる必要なんかまったくないんだ。我々は選ばれたのだから。


「先生! 」

「青井先生! 」

「皆落ち着け! 大丈夫! 大丈夫だからな! 」

「先生こそもう少し落ち着いてください。震えてますよ」

ミコは凄く冷静に見える。

ここはいっそのこと彼女に任せるのも手かもしれないな。

この手のことに恐怖心をまったく抱かないなど異常だが。心強い。


「ちなみにこのもやっとした奴が常冬地方に流れ込むから冬のように寒い訳だ。

まず東常冬町にまず流れ込んできて山を越えて西常冬村まで届く仕組み…… 

何だよ青井も皆も気を失ってやがる。まったく情けない奴らだな。

せっかく詳しく教えてやろうとしたのに。

うん…… あいつどこかで見たような…… いや気のせいか。


「続けてくれませんか? 」

一人普段と変わらない者が。

「ああミコつったか? タフだなお前? どんな鍛え方してるんだいお嬢さん?」

「いえ普通ですよ。これくらいどってことない」

怯えてると言うよりは興奮してそれを何とか抑えようとしてるかのよう。

何て奴なんだろう。これが同じ高校生?


船は前進を続ける。

「おいお前! ほら青井! 青井先生! 」

ミコ以外は誰も反応しない。

いくら呼びかけようが引っぱたこうが起きる気配がない。

いつの間にかそのミコも意識を失っていた。

あーあ。またかよ。だから人間は乗せたくないんだよな。

俺の苦労も知らないでさ……


慣れればこのモヤも恐れることはない。

意識を失うこともない。

ただ慣れるには相当な訓練が必要になって来る。

モヤの直前でちょっとずつちょっとずつ慣れて行く。

気の遠くなるような訓練の果てにようやく漕ぎ続けていられる。

これは相性もあるのかな。

一回や二回でどうにかなるものではない。


では皆さんおやすみな。

どうか夢の世界を楽しんでいってくれ。


               続く

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