クルミ
どうも信用ならないがまあこれ以外に手掛かりがない以上すがるしかない。
それが奴には分かってるのかどうも高圧的だ。
ついでに生意気でもある。
「分かった。明後日までに集めて見せる。どこに行けばいい? 」
取引は順調。だがイントはそう簡単に手に入るかな?
「それは後で教えてやる」
意外にも慎重な野郎。まったく大人をからかうと酷い目に遭うぞ。
でも確かイントは確かさほど価値がなかったような気がする。
それともそれ以外の何らかの価値があるのか?
俺にはただのお土産でしかない記念コイン。
「本当だな? 」
念を押す。
「さあその話はお終いにして後は二人で楽しもうぜ」
うげ…… そんな冗談だろ?
こいつの目的は俺の体……
おえええ! 吐き気がする。
でも応じなければ当然反故にされる。そんな訳には行くか。
ここは我慢するしかない。本当は我慢はしたくないし嫌だけど仕方がないさ。
クソ! 多少の犠牲は付きものか。もうそう考えるしかない。
ははは…… 今日はとことんついてないらしいな。
とにかくこいつにやる気を失わせるしかなさそうだ。
「俺は青井。青井サプロウタだ。君の名前を教えてくれないか? 」
時間稼ぎしても何の意味もないのは分かってる。
でも気を逸らせば最悪の事態は免れるのではないかと淡い期待を寄せる。
だがどうせそんなの一瞬で吹き飛んでしまうんだろうな。
強烈な思い出が上書きされるのだから。
しかし俺ってどうしてこの方面からも人気が高いのかな?
女の子だけでいいのに。
「アア! まだ自己紹介してなかったな。俺はクルミ」
クルミか…… 良い名前だとは思う。でも何となく違和感がある。
「へえクルミか? 何か女の子みたいな名前だね。ははは…… 」
「ああん? どう言う意味だ? 」
怒らせてしまったか? ただ素直に感想を述べただけなのに。
意外にも怒りっぽいのかな?
「男同士でそう言うのはさ…… 」
教師である前に男だからな。まだ若いのにこれではまずいのでは?
「ああ? 俺は女だ! だから当たり前だろうが! まさかお前は…… 」
嘘だろ? まさか女だって言うのか?
逆にこっちが変な誤解を与えてしまったみたいだ。
「おいおい! 勝手に勘違いするな! 俺は女好きだ! 」
教師にはあるまじき大胆発言をしてしまう。
どうも調子に乗ってしまうところがあるんだよな俺って。
格好つけたくなったりも。
「だったら問題ない! 」
そう言うとキャップを放り投げいきない口づけをする。
何て強引なんでしょうか? 俺はまだ良いとは言ってないのに。
怒りっぽくてせっかちな女の子クルミ。
何を考えてるのかまったく読めないなこの子は。
ただの異常性欲者とか? そんなはずないか。
でもよく見ると可愛いんだよな。そして誰かに似ている。
最近会ったことのある誰か?
アイではないしタピコでもない。
ショートカットのところはタピコに少しだけ似てるかな。
当然ミコにも似てはいない。
ああ誰だ? 彼女は一体誰に似てるんだ?
まあいいか。触れあってればその内分かるさ。
喋り方さえどうにかすればスタイルもよく顔も整ってるもんな。
ボーイッシュのところなんか副部長に似てるかあ。でも違うし。
惜しい! 俺の理想一歩手前ってところかな。
「ほら早く! 脱ぎなよ! 相手してやるからって! 」
どうも男の子っぽくていけない。
女の子泣かせる男の子はよく見るが彼女は男の子を泣かせるタイプなんだろうな。
「クルミちゃんって呼んでいい? 」
「ああん? ふざけるなてめえ! 」
ダメだ。言葉使いが酷い。これではどうも萎えてしまう。
俺ってどうやら可愛らしい女の子がタイプのようだ。初めて分かった。
今ようやく自分が分かった気がする。
「クルミって良い名前だね」
どうにか機嫌を戻してもう少し楽しみたい。
「そうか。俺はあんまり好きじゃないな。妹はミルクって言うんだぜ。
おかしいだろ? ははは! 」
ダメだ。やっぱりまだ男っぽいや。
ミルクってどこかで聞いたような……
「へええ…… 」
寒さに耐えかねて布団の中へ。
続く