単独行動
お昼を済ましトラブルメイカーの二人を回収。
チームに別れて再び調査開始。
しかし目新しい情報はなく手掛かりを掴むこともなく時間だけが過ぎて行った。
疑問点をメモに記す。
なぜ若者、特に少女が少ないのか?
常冬地方特有のこの寒さはどこから来るものなのか?
夜。
「先生雪が降ってきました! 」
「先生! 先生! 」
「分かってる。騒ぐな! 寒かったらもう一枚着ろ! 」
生徒たちの言うようにパラパラと雪が落ちて来た。
どおりで冷え込む訳だ。
常冬地方では夕方から朝にかけて雪が降るのが常。
ただ大雪になることもなく積もりはしない。
だから町にしろ集落にしろ雪国特有の屋根作りにはなっていない。
そう何と言っても積もる心配がないからな。
異常気象にでもならない限り大丈夫。
ここの者も口を揃えて問題ないと言う。
そう考えるとこの雪はただの雪ではないのかもしれないな。
やはり異世界から流れてきたものと見るのべきか。
どっぷり日が落ち暗闇が支配する時間帯。
大した明かりもないのでライトを頼りに辺りを探り探り歩く。
昨日お世話になった民家にまた泊めてもらうつもりだ。
だが俺はその前に寄るところがある。
「青井先生どちらへ? 」
まるで監視しているかのように詮索するミホ先生。
まさか俺を信用できないのか?
顧問と副顧問の関係だけでなく恋人関係でもあるはずなのに。
俺が勝手にそう思ってるだけか? あっちは何とも思ってない?
「済みません。夜は町で。さすがに生徒たちは連れて行けない。
後はよろしく頼みます」
「先生まさか不倫? 私信じてたのに! 」
アイがふざけて騒ぎ立てる。
この町に行くとこなどありはしない。不審に思われても仕方がないか。
「おいおい。俺はまだ独身だっての」
「それじゃ浮気だ! 」
「うるさい! お前らは大人しくミホ先生の後について帰ればいいんだ! 」
少々ムキになったかな? でもイチイチ説明するのも面倒なので。
「分かりました青井先生。気をつけてくださいね。夜は何かと物騒ですから」
ミホ先生の気遣い。心にしみるその一言。やる気が出ると言うものだ。
「大丈夫。充分に気をつけますから」
皆と別れて夜の町へ。
寂しいかな少しだけ。本音を言えば皆とワイワイしていたかった。
だが時間が時間だしな。怖い思いをするのは一人で充分。
怖いと言えばあいつら大丈夫かな?
二人でお邪魔してぬえさんがふざけて山姥の格好で出迎えたりしないよな?
あの人ふざけるのが大好きだから。
これもサービスだと思ってるから余計に始末が悪い。
俺もあいつらも山姥の餌食にならないことを祈ろう。
取りあえずレストランでも探すか。
単独行動開始。
昼間のうちに見つけておいたんだよな。確か…… この辺だったような。
ついさっきまで明るかったのにもう真っ暗。
暗くて足元がよく分からない。ライト一つではとても照らせない。
あれかな…… いや違う。これじゃない。
俺って実は地図も良く分かってないんだよな。
しかも地図は適当に見る癖がついてるからいつも反対に行ってしまう。
仮に気をつけ人に聞いたって反対に進むからな。
だから一度思ったのとわざと反対に行ったこともあったな。
当然迷った。それ以来そんな間抜けなことはしないと誓った。
でもほら迷ったってたかが知れてる訳で。
真夜中でない限りその日のうちに帰って来れる。
最悪タクシーを使えば自宅まで送ってくれる。
その度に痛い出費したっけ。
だがここはどうだろう?
迷えば一巻の終わり。そんな気さえする。
東の果ての果て。山奥の田舎で迷えばそれは怖くて寂しい。
男の俺でも泣いてしまうほど。
迷った先は現世とは限らない。地獄に繋がっていても何ら不思議ではない。
さすがにそれは言い過ぎだろうがその恐怖は計り知れない。
出来たらそのまま異世界に繋がってくれれば楽なんだが。
目標の異世界。生徒たちはきっと羨ましがるだろうな。
でも一人はさすがに遠慮したい。せめてミホ先生と。
もちろん帰ってくることはないだろうが。
お近くの交番があるか知らないがそこで失踪届を出して何年後かに死亡扱い。
そんな絶望的な未来が見えてくる。
おっとすべては俺の妄想。恐怖から生まれた戯言。
おおあった。あった。あれ看板が……
<午後七時まで営業>
時計を確認。
現在時刻午後六時半。
もうギリギリか……
まあいい。やってるだろう。
さあ温まるとしましょうか。
続く