追い駆けられて
別行動のイセタンとカズトの二人と合流。
「だから先生早く! 」
カズトは怯える。一体何をそんなに焦る必要があるんだ。
間抜けな思いつきでダイブしたことを咎められるとでも思ったのか?
「待ちなさい。まだ擦り傷が…… 」
負傷者の手当てはまだ終わらない。と言ってもダイブした時のカスリ傷だが。
まったく願いが叶ったんだから大人しくミホ先生に介抱してもらえよな。
付き合いの長い俺だってまだそんな風に甲斐甲斐しくしてもらったことないのに。
そうか…… 平和だったから。
いくら合宿とは言え見知らぬ土地で怪我をするなんてそうそうないからな。
ふういい加減疲れたよ。学園生活は楽しかった。
もう戻れぬ日常を懐かしむ。
おっと…… 俺が感傷的になってどうする?
生徒を導かなければならない立場なんだぞ。
気をしっかり持たなければ。
ざわざわ
ざわざわ
「騒がしくするんじゃないお前たち! 」
あれ騒がしい? どう言うことだ?
どちらかと言えば大人しい方の二人。
なぜこんなにも騒々しんだ? 訳が分からない。
「おいお前ら! そいつらを引き渡せ! 」
頭に血が上った数人の男たちが息を切らして迫る。
まさか本当にトラブルを起こしたのか?
てっきりふざけてるのだとばかり。きちんと聞いてやるべきだった。
あいつらはさすがに観光客じゃないから地元の者だろう。
まったく奴らを怒らせて良いことなど一つもないのに。
子供のしたことだからは通用しないよな。あの怒り方では。
どうやって穏便に済ますか。もうそれで頭が一杯。
「この二人が何か? 」
逃げるべきか? 今逃げればどうにか…… ダメだ。見られている。
それに二人だけなら逃げられてもミホ先生たちは無理だ。捕まっちまう。
ここは大人しく引き渡すしかなさそうだ。
しかし奴らは一体何をしたんだ?
「こいつらは俺らの船を盗もうとしやがった。
お仕置きせにゃ。早く引き渡さんか! 」
この中で一番冷静な男が交渉役。
どう見ても不適格に見えるが他の奴らよりは冷静だそうだ。
「構わずにやっちまおうぜ! 」
野蛮な連中が騒ぎ出した。
どうする? どうすればいい?
彼らが騒ぎ立てるものだから近くの者が集結しだした。
恐らく娯楽の少ないこんな山奥では格好の見世物。
当然俺たちは敵。この地域に害をもたらす悪魔の使いだとでも思ってるのだろう。
いいぞいいぞと無責任に騒ぎ立てる輩。
こんな時はどうすべきか? 失敗は許されない。
これではますます逃げられない。
隙を突いての電撃作戦は選択肢から消える。
ザワザワと人だかりができる。
若者もいるにはいるじゃないか。
こんな時にいなくたっていいんだけどな。
老人主体なら戦っても逃げても何とかなったがこれではもう話し合いしかない。
温厚な人々だと願うしかない。
「ほら何をやってるんだ! 」
「そうだそうだ。早くしろよ! 」
何度も言うがここにいる者は全員敵。
俺たちがそう思わなくてもあちらは思っている。
しかも盗みを働いたんじゃ言い訳のしようもない。
町の人からのイメージダウンは文字通り命取りになる。
慎重にも慎重に。対応を誤ればこいつら全員が暴徒化して襲ってくるだろう。
そんな恐ろしい未来も見えなくもない。
ふう暑いな。それにしても暑い。
もう興奮して体中が熱く燃える。そんな気分。
まるで俺に正面から戦えと言ってるようだ。
しかし俺はただの英語教師。体力に多少自信がある程度。
こっちの戦力は疲れ切った異世界探索部の二名。
ミコが意外にも戦力になるかもしれないが。やはり未知数だ。
「早くしろって! 」
催促される。
うん? これはまだ俺たちの真の目的に気づかれてないってことだよな。
こんな状況だが一安心。目的に気づかれて取り囲まれるのだけは避けねば。
切り抜ければもしかしたら……
「おいお前ら何をしたんだ? 」
引き渡す前に念の為に話を聞く。誤解があったかもしれないからな。
二人が船を盗むメリットがどこにある?
操縦も出来ないだろうし燃料だってあるかどうか。
「別に何も…… 」
「ウソをつけ! 船を盗もうとしたって言ってるぞ? 」
この状況でシラを通すんだったらお前らが交渉しろよな。
「それは…… 動くかどうか確かめてたんだよ。
動くようだったら借りようとして…… こいつがそう言うから」
イセタンがカズトのせいにする。その可能性の方が高いが同罪だろう。
「ふざけるな! 俺は冗談で。そしたら部長が…… 」
「そんなことない! 」
醜い擦り付け合いが始まる。
お互いに相手のせいにして自分は悪くないと言うスタンスを取る。
まったく呆れるな。反省もしないで人のせいにしてどうする?
「うるさい! 二人でやったことだから二人できちんと謝罪してこい! 」
突き放す。なぜ俺がこんなアホなことで巻き込まれなければならない?
「分かったら早くしろ! 」
「はーい」
何て言ってもまだ高校生。聞き分けは特にいい方。
ボロボロの油染みがびっとりついた白っぽい服の二人組。
船の所有者はどうやら彼ららしい。
続く