告白 一線を越えて
甲斐甲斐しく世話する孫娘を遠ざけ一人で応じるお爺さん。
聞かれてはまずい用件だと理解したからだろう。
お爺さんは本気らしい。我々もそれに応えねば。
「用がないなら帰ってくれんか? 自分はまだ眠い」
気分を害したらしい。これだから気難しい爺さんは。
いや…… 待てよ。これも作戦のうちなのか?
ただの老いぼれだと侮っては痛い目を見るな。
「あー失礼しました。我々は昨日からこの集落に滞在しています。
ある目的の為にここまで来た次第です」
濁しながらもお爺さんに訪問の意図を伝える。
後はその反応を見て詳しく話すか考える。
まずはお爺さんとの信頼関係を築くことが先決。
その後に好きなだけ語ればいい。
隣のアイがじっとこちらを見る。
先ほどのことを気にしてるらしい。
まだまだ子供だな。あれくらいただの挨拶…… な訳ないか。
ミホ先生にも気持ちが充分伝わったことだしそろそろ俺たちも。
妄想に浮かれていると再び視線を感じる。
睨みつけるよなアイ。そのアイを目で制す。
アイはどうしようもなく恥ずかしそうに俯いてしまう。
やった! 眼力勝負は俺の圧勝だな。
アイに眼力で勝つのは思ってたよりも快感。何とも言えない満足感を得る。
ふふふ…… 少々大人げなかったかな?
「目的か…… ある目的とは何であろう? 」
「それを聞きますか? 」
「ああ、あんたらの目的が分からんと答えようがないではないか」
どうやら協力してくれるらしい。
では次の段階に移るとしよう。これが最終確認だ。
「あなたは我々が何者であろうと口外しないと約束できますか? 」
ついに一線を踏み越え告白することに。でもその前に確認。
これ以上隠しながらでは非効率的だからな。
仮に俺たちの存在を疎ましく思う輩がいたとしてもそれはそれ。
恐らくここの者たちには我々の目的はとうに知られてしまっているだろう。
こんなところまでやって来るのはイカレタ奴か異世界探索隊ぐらいだろうからな。
もうほぼバレているのだからお爺さんに何を語ろうと問題ないだろう。
言わずに嗅ぎ回るような行動を取る方が誤解され危険な目に遭う確率が高い。
誰にも彼にも言うのは避けるべきだが少なくても情報提供者には礼儀として。
問題はタイミングだよな。それから言い方も重要。変に誤解されないように。
大きくため息を吐く。ミホ先生を一度見てから爺さんに視線を戻す。
「もうこれ以上隠し通せませんね。目的とは即ち異世界を発見すること。
その為には旧東境村へ行かねばなりません」
ついに言ってしまった。あれだけ迷ったが協力を求める方を選んだ。
今更後悔する気はない。ただお爺さんには刺激が強すぎるような気もする。
ゴホゴホ
ゴホゴホ
これは真剣な話だと立ち上がる。
「お前さん方は旧東境村へ行くのか?
それは止めた方がいい。何が待っているか分からん。
どんなことがあっても不思議ではない。無事に帰って来ることはないだろう。
それでもいいと言うのか? 旧東境村はそれはそれは恐ろしいところだぞ! 」
どうやら旧東境村には行ったことがないらしい。そんな口振り。
では行き方を知ってるとはどう言うことだ? 騙された? 騙されたのか俺たち?
この情報はミホ先生が持って来たもの。
いい加減なネタを掴まされたか?
「大げさですよお爺さん」
タオが落ちつくように宥める。
「大げさなものか! あそこにはどんな化け物がいても不思議ではない。
絶対に止めるんだ! 考え直せお前たち! 」
血相を変えて脅しに掛かる。
我々は昔話に驚く地元のガキじゃない。
もうとっくに卒業してるっての。
孫娘もそうやって縛り付けてるのか?
彼女の幸せを考えればそんな戯言を吐かずに見守ってやるべきだろう。
それに我々だってそんなつまらない脅しに屈するものか。
なぜこんなことを?
地元の者が観光客を脅して楽しんでいるかのような底意地の悪さを感じる。
それとも確証でもあるのか?
ないだろ? 見たことがないのだから。
「いいかもう一度言う。あそこには行くのは止めるんだ!
食い殺されるぞ! 骨も残らないほどぺろりと全部食われてしまう。
俺はその光景を嫌と言うほど見て来たのだからな」
お爺さんは止まらない。
いつの間にか自分が見て来たような口振りに。明らかに変化が見られる。
嘘なのか本当なのかさえあやふやだ。
だがあの迫力は演技ではない。
爺さんもまた若女将のように近づく者へ最後の忠告をする存在なのかもしれない。
近づくことがいかに危険でいかに間違ってるかを説く最後の砦。
我々の前に立ちはだかる大きな壁。
ただ邪魔されるよりもよっぽどストレスを感じる。
どちらか分からない以上下手にに否定できない。
それが彼らの狙いなのかもしれないな。
続く