自己紹介
<ZERO館>
タピオカ部初顔合わせ。
生徒を目の前にするとやはり緊張するな。特に女の子だけだと余計に。
部長に活動の報告をしてもらい落ち着いたところで自己紹介。
「よし集まれ! 」
分かりやすく学年ごとに並んでもらう。
部長と副部長。それに美人三姉妹。それ以外の二年生が三人と一年生が五人。
うんうん。新入生は五人もか。これは想定より多いな。
聞いたこともないマイナーなタピオカ部にこれだけ集まれば充分だ。
前顧問が言ってた通り男子は一人もいない。
これは本当に王国が作れそうだなと冗談言ってたら何か飛んできそう。
それにしても何だあの歓迎の仕方は?
生徒たちは自分たちが女なのを良いことに俺をからかおうとしている。
さっきの悲鳴だって分かってるくせにわざと上げた。
着替えの途中? そんなはずあるか!
まったくふざけやがって。ガキどもの癖に生意気なんだよ。大人を舐めるな!
さあこれくらいでいいだろう。ストレス発散して不満をため込まないのがプロだ。
切り替えて自己紹介。
ホワイトボードにでかかでかと自分の名前を書く。
青井三郎太 アオイサプロウタ
「いいか。俺の名はサプロウタだ。サブロウタではないから気をつけるように」
そんなのどっちでもいいと文句を言う集団。生意気な。
「それから呼び方はシンプルに青井先生でもいいし気安くサプニーでも構わない」
自己紹介を終える。
「先生! 」
部長から順に一言。
二年生は事前に入手した写真で大体見分けがつく。
一年生はここにいる五人だけ。もう五月だしこれから入部することもないだろう。
タピオカ部なんて変なクラブに興味を示す者は少ない。
結局新入部員に男子はおらず幽霊部員と大怪我の二人のみ。
実質女子のみとなってしまった部室で着替えを気にする者などいない。
更衣室ならこの階にだってあるだろう?
なぜ更衣室を使わずに部室を代わりにするのか。
うんうん分かるぜ。面倒臭いだろうなきっと。でもこれは常識の問題じゃないか。
弛んでいる。ここで甘やかさずに厳しくすべきであろう。
最初が肝心だと言うしな。
「これからは更衣室で着替えてから来ようね」
あー情けない。厳しくできない。
俺は別に暴力教師でも昔堅気の男でもない。
暴力はもちろんダメだけれど厳しく叱れないのは生徒たちにも悪い気がする。
ちゃんと向き合ってない。でも最初は優しく対応してあげたい。
矛盾と言うかこだわりと言うか主義主張と言うか。
女性ばかりだとどうしても流されてしまう。
「はーい」
聞き分けはいい子だ。
だが返事だけと言うパターンもある。
繰り返されるようなことがあればその時改めて注意すればいいさ。
直らなければ何度でも説教する。
甘いかな……
さあ切り替えて活動を見て回る。
どうやら月末に向けて話し合いをしてるらしい。
うんうん。頼み込んで作っただけあって皆熱心だ。
一年生はまだよく分かってないらしくただ聞いてるだけ。
俺も人のこと言えないけどね。
三年生はいないから二年生が中心メンバー。
月の第四土曜日に市内でタピオカドリンクの販売を行う。
売り上げは活動費に充てられ残りを俺が…… と言うのは冗談残りは貯金に回す。
これで夏合宿が多少豪華になる。
今回の合宿地は何と台湾で本場のタピオカを研究し尽くすそう。
うん? 本場って台湾だっけ? 東南アジアだったような気もする。まあいいか。
もう決定事項で変えられないそう。顧問に一言の相談もなしに決めるんだからな。
皆研究熱心なことだがただの旅行とも言えなくもない。しかもお高い海外旅行。
まさか俺もついて行くのかな? 顧問だし仕方ないよね。これも役得さ。
グレードアップのための販売会。何としても成功させなければ。
おっと…… ダメだ。ダメだ。これは純粋なクラブ活動さ。
成功は大切だが売り上げよりも経験を大事にしたい。
まあ皆気合いが入ってるからまず間違いなく上手く行くだろう。
去年は第五土曜日のみだったらしい。
だからほとんど野外活動は出来なかったと嘆いていた。
去年一年間で信頼関係を築き月一の販売会を任せてもらえるように。
すべて引き継ぎで聞いた話。
そう言えば前顧問の先輩変態英語教師はロンドンで元気にしてるかな?
あの見た目だから元気にしていても勘違いされそうだが。
続く