ハプニング 不可抗力につき
最初にお世話になったお宅。
旧東境村に関する情報は極秘のはず。
ここに来たばかりの怪しい奴らに万が一にも漏らすだろうか?
あの奥さん口が堅そうに見えたがな。意外にも話し好き?
だとすれば結果的に女性陣を泊めたのは正解だったかもな。
恐らく俺では聞き出せなかったであろう極秘情報を得たと見て間違いない。
やっぱりこう言う時はミホ先生は頼りになる。
「よく教えてくれましたね? 」
「それが…… その…… バレちゃいました」
ミホ先生がとんでもないことを言い出す。
おいおいまさか冗談だろ? せっかく極秘に動いていたのに。
笑ってるがちっとも笑いごとではない。
「気をつけてたんですよ。目的も話さずに一方的に質問するのにも苦労しました。
それでもどうにか。ただタピオカ部の合宿と言ったのが間違い。
でも登山部と言ったり正直に異世界探索部と言えばボロが出ますからね。
どうにかタピオカ部で誤魔化したんです。疑われましたがそれでも何とか。
ですがミコさんの日課のあれがバレてしまいまして…… 」
そこでストップ。何か照れてる様子のミホ先生。
「はい? 日課? 何のことです? 」
今更恥ずかしがっても意味ない。何が原因だったのかはっきり言って欲しい。
ミコと言えば…… 思い当たるのはアレかな。
「えっと。その…… ミコさんが舞ですかね…… ダンスを始めまして。
盛大に披露してしまいました。ははは…… もう諦めるしかありません。
それでも必死に止めたんですよ。でも手遅れで。
奥さんの顔がみるみる赤くなって最後には青くなってもう見ていられなくなって。
ショックを受けたのか今は寝込んでいます」
だからミホ先生は一人で来たのか。
二人は奥さんの世話をしてるのだろう。
うわ…… ミコの舞は確かに気をつけるべきだった。
冷静になればただの異常行動でしかない。言い訳は出来ない。
正直者のミホ先生では想定外をアドリブで適当に乗り切るのは無理か。
指示でもないとやっぱりできないよな。俺だって無理。
「ははは…… 俺も初めて見た時は異世界に迷い込んだと錯覚したな。
ほぼ裸で隠すところを間違えた奇妙な踊り。
常軌を逸してる。そんな風に感じましたよ」
今でも鮮明に記憶しているあの日の衝撃。
俺は一体何を見せられてるのかと不思議に思ったもの。
もちろんそれだけでない二人だけの秘密があるのだが。今は良いよな?
「青井先生! ちょっと何を考えてるんですか? 」
「ええっ? 俺は何も…… 」
ミコの舞を思い出していたらつい興奮したのか自然と体が反応してしまった。
いやそんなつもりではなく…… どうも昨日からおかしい。
集落に着く前ぐらいから体に異変を感じていた。
昨日も記憶が飛んだことがあった。
タピコもアイも俺が狂ったって言ってたが。
冗談で本気にしてなかった。まさか俺の体に何らかの異変が現れ始めてるのでは?
生徒の前では極力控えていたが激情が抑えきれなくなっている。
もはや教師とは言え聖人君主とはいかないのかもしれないな。
「ミホ先生待って! 」
「もう知らない! 」
「待って! 待ってください! 」
「近づかないで! 」
怒らせてしまった。やっぱりまずかったかな?
それでどっちがまずかったんだ?
ミコの舞を妄想してたから? それとも単純にその手のことを嫌がってるのか?
それとも生徒に負けたから?
本当にこれは不可抗力なんだ。ミホ先生が悪いんじゃない。
もちろん俺が悪いんじゃない。誰も悪くない。悪いとしたらミコかな?
格好は知らないがあの踊りを見せつけられれば誰だってポカーンとなってしまう。
奥さんはまだまだ若い方だろうがそれでもお年寄りには刺激が強すぎる。
「分かりました。それでミコは異世界! 異世界! と連呼した訳だ。
そうか何となくですが状況が見えて来たな。さあ行きましょう」
うわ!
座り過ぎていて足が痺れていることを考慮せずに無理に追いかけたから……
踏ん張りが利かずにバランスを崩す。
ミホ先生の方へ倒れ込む。
足場の悪い岩場では足元がふらついては命取りに。
危機回避の為に何とか踏ん張るが…… 当然堪えきれない。
ザブーン
ボチャ
崩れた土と砂が海へ身代わりに落ちて行く。
そこに小石が続く。
ふう危なかった。何とか留まった。
二人は抱き合うように重なる。
「済まない…… 」
「いえ私こそ。でももう支えきれないです。早く! 」
崖下とまでは行かないがごつごつした岩場から落ちれば痛いし冷たい。
着替えも必要になる。シャワーだって浴びなければ風邪を引く。
だからここで落ちる訳にはいかない。
でもこのまま抱きあったままでは動きも取れないしな。
何とかしなければ。
続く