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手紙と孫娘

ぬえさんは我々の目的が分かっていながら追及を緩めない。

自分のせいで集落の者を危険にさらしたくないのだろう。

だから慎重にもなる。まだ完全に信頼されてない証。

いくら我々が迷惑はかけないと言っても意味がない。

なるべく早く立ち去るべきだな。


「ありがとうございます。我々もすぐに立ちますので。ただ手掛かりが…… 」

「ははは…… 登山部に何の手掛かりが必要なんだい?

もし隣町までの地図が欲しいなら仲間に作ってもらえばいいさ」

すべて分かってるくせに白々しい態度をとるぬえさん。


「それが…… 」

「まったくはっきりしないね! まあいいやこれも仮定の話。

あんたらが旧東境村を目指すなら一つ頼まれてくれないか。さあどうする? 」

ついに今までオブラートに包んでいたものをオープンにし正体を現すように迫る。

「はい。残念ながら我々はあなたが思ってるような者です」

もう覚悟を決めるしかない。

正直に答えてもぬえさんなら信じられる。ただすべてを話す気はないが。


「おうおう随分と抽象的だね。うんそれで何が聞きたい? 」

「このイントです」

そう言ってレプリカではなくイントを渡す。

「イントってのはね。ある島で使われてるのさ。

独自の通貨だよ。だからここでは使えない。いや使っても嫌がられる」

ある島で使われている独自の通貨。それがイント。

ある島とは具体的には言わなかったがたぶんあそこだろう。


「こっちだって連れて行ってやりたいさ。

でもそれは出来ない。神聖な場所だから立ち入りは制限されている。

ただある方法を使えば不可能じゃないよ。でも今はどうかな?

おっと私から聞いたって言うんじゃないよ? 生きていけなくなるからね。

秘密を話せばここを出て行かなければならない。

絶対に秘密だからね? そしてもうあんたたちと私は仲間だ」

勝手に仲間にされても困るんだけどな……


「うちにも孫娘が居てね。その娘はちょっと遠くの方まで行っちまって。

もし出会ったら手紙を渡しておいてくれないかい? 」

ぬえさんからの頼まれごと。

「もちろんそれくらいお安い御用ですよ。

一宿一飯の恩義に応えるのは当然のことです。任せてください! 」

あれ…… 安請け合いしたかな? 本当に会えるのか若干不安になる。


「悪いね…… 」

この段階になって遠慮するぬえさん。

山姥などではなく血の通った孫思いの女性。

「俺もあいつらもそれくらいどってこと…… 何でもしますよ」

「だったらこれで」

そう言うとどこからか認めていたであろう手紙とコインを渡す。

何とイントではないか。

「いやさすがにイントは受け取れません」

「いいからいいから。後で絶対に必要になってくるんだから。取っておきな!

それじゃ頼んだよ先生」

必ず孫娘のところに届けてくれと念を押す。

「分かりました。手紙は必ず! 」


この手紙は目的にもなり得る。

集落の者に頼まれたと言い訳にも使える絶妙なアイテム。

約束したからには届けなければ。

それが一宿一飯の恩に報いることにもなる。


「さあもう今日は遅い。あんたも早く寝な! 」

「あれ…… ぬえさんはまだやることがあるんですか? 」

「ひひひ…… 寝る前に少しね」

まだやるつもりらしい。

一体どこまでが本気なのか分かったものじゃない。


翌日早朝。

三日目の朝を迎える。


「昨日は遅くまで何をしてた?

女房が迷惑を掛けなかったか気になってね。

本当に長話するのが好きなんで困っちまうよ。

いつも近所の奥さんと立ち話してるから夕飯が遅れちまう。

あんたらにも迷惑掛けなかったか? 」

昨夜は姿を見せなかったご主人とばったり。

てっきり一人暮らしだと思ったが本当にご主人は存在するんだな。

奥さんの愚痴を聞く羽目に。


「俺は観光客は大嫌いだがあんたは偉い先生なんだろ? 」

どうも勘違いしてるらしい。

格好つけて英語教師と名乗った。

それをどう勘違いしたのか偉い学者だと思われている。

面倒だから適当に合わせている。


ご主人には悪いが俺たちは引っ掻き回したアークニン探索隊と似たような者。

この地域の謎を解明する為にやって来た。

そうして旧東境村へ通じる道のりを探す。

それが我々に課されたミッション。


「ははは…… 」

どうしても歯切れの悪い話し方になってしまう。

何と言ってもよそ者を毛嫌いしてるからな。

言葉選びも慎重に少しでも疑われたらそこで終了。

何だかんだ言ってこちらの正体を探っているのかもしれない。

いやこれだけ話してくると言うことは間違いなく探ってるのだろう。


この集落の者は町の者に比べれば大人しく優しいと聞いた。

異世界がどうのこうのと旧東境村がどうと言った日には怒り狂うかもしれない。

これでは集落で追い回されるだけでなく町全体で襲いかかってくる可能性も。

我々は彼らにとって平穏な日常を破壊する敵なのだから。


                 続く

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