今夜の宿確保!
東常冬町。旧常冬村地区。
町の者からは集落と呼ばれている。
「ほらこっちだ。ついておいで」
光を失い危うく野宿のところを迎えてくれた。
これでもう安心だろう。
「さあこっちだ! こっちだよ! 」
分かれ道を右へ折れる。
近道だそう。海沿いの道は膨らんでいてえらく時間が掛かるらしい。
近道を選んだお陰で時間を短縮出来た。
そう言ってるのは集落の者で我々にはよく分からないが。
初めての町では当然のことながらどこがどうなってるのか見当もつかない。
雨が降って視界が悪ければ余計にそう。暗ければなおのこと。
危険はないと判断してついていくが果たしてただの善良な市民であろうか?
我々をおかしな世界に誘おうとしてないか?
ただ仮にそうだとしても我々の目的は異世界なのだからそれはそれで構わない。
七人もいればどうにでもなると言う過信から警戒を緩めてしまう。
これはまずい兆候。冷静な判断が出来ない状態。
ミホ先生が気利かしてくれるといいが期待は薄い。当てになるのはミコぐらいか。
そんな風に余計な心配するまでもなく目の前に建物が見えて来た。
「さあ着いたで。ここが我が家だ」
一軒の家を紹介される。
当然断る理由はない。遠慮なく寛ぐとしよう。
こうして二日目の宿を確保。
一日中歩いて酷使した体を休める。
「疲れた! 」
誰かがそう言うと皆口々に泣き言を。
「足がもう動かないよ! 」
「到着! ヤッター! 」
「眠いよ。もう眠くて眠くて…… 」
「ゲッ! 」
カズトが何かに気づいた。
それは恐らく虫か何かだろう。
「おいお前らうるさいぞ! 静かにしろ! 」
こっちだって疲れている。いちいち注意させないでくれ。
おかしな幻想に悩まされて体だけでなく頭まで使い果たした。
ここは昔からのクラッシックなお家。
「狭くて汚いところだけど泊まって行ってくれ。
一泊と言わずに二泊三泊でも構わねえからな」
集落では若い方の六十代のおばさん。確かに我々よりも元気そうだ。
「ありがとうございます」
「でもよ…… 全員は無理だ」
狭いが故に全員は泊められずに半分に別れることに。
四人が限界だそう。
だとすると女性陣がちょうど四名なのでここは譲るとしよう。
「ではミホ先生たち女性陣が泊まらせてもらうといい」
リーダーとして命令する。
「私はちょっと…… 」
「先生遠慮しようかな」
「申し訳ありません。私もちょっと…… 」
こんな立派なお家だと言うのに不満があるのかなかなか首を縦に振らない。
ミホ先生まで嫌がる始末。何と情けない。ここは自分の家ではない。
山奥の田舎だぞ。そんなところ泊まれるだけでありがたいのに。
嫌がるなんてどうかしてる。断わるのか…… そんなことあるのか?
野宿やキャンプと比べたらどれだけ素晴らしいか。経験者の俺にはよく分かる。
もちろん俺だって出来るならもう少しマシなところに泊まりたかった。
それは理想を言えばってことで…… 我慢して泊まる以外ないだろ?
「先生…… 」
アイが甘えた声を出す。いやそれは反則だよ。
自分のかわいさを武器に俺に交渉させようって魂胆だ。
まったく本当に上手いんだから。将来が末恐ろしいなこの子は。
「あのおばさん。もう少しまともな…… いえ新しい家はありませんか? 」
失礼を承知で聞く。これはアイの気持ちだけでなく女性陣の総意。
「ああん? 新しい家? 」
さりげなくなのでおばさんは気づかない。もうここははっきり言うしかない。
「一番新しい家を探してるんだ。心当たりないですか? 」
さあこれで用意してくれるでしょう。
「何を言ってんだ! オラの家さが新品。一番新しいね! 」
豪華な屋敷じゃろ? 他と比べものににならないくらいな! 」
自信満々のおばさん。どうやら本当のことらしい。
他の者も同意してるから確かだろう。
前途多難な宿探し。
さあどうしようかな。
確かに薄目でちらり見る分には豪華絢爛に見えなくもない。
オンボロ屋敷とは言え泊まれるなら文句ない。
仕方ないさ。選んでられない。俺がお世話になりたいぐらいだよ。
「ミホ先生我慢してください。これ以上の掘り出し物件はないそうですよ。
次が楽しみだな。ははは…… 」
耳打ちする。ミホ先生は聞き分けよく聞き入れる。
ごねるもう二人を説得して女性陣をこの家に。
何にも動じないミコはもうすでに寛いでいる。
うん。俺たちもこれくらい達観出来ればいんだがな。
続けて男性陣の部屋探しだ。
女性陣が泊まる部屋よりもグレードダウンするのは必至。
果たしてどんな家に泊まらせてくれるのかな?
希望よりも絶望が勝る宿探し。ではそろそろ行くとしますか。
続く