寒い! 寒い!
随分と冷えて来た。この分だと雪になるかな?
それでもミコは強がりなのかまったく寒くないそう。
これって凄いことなのか? 異常体質?
イセタンだけはミコの異常性に早い段階から気付いてたらしい。
逆にカズトはそう言うところは無頓着。
と言うかあまり女生徒と関わりを持たない。単に苦手なのか。
ただアークニンと出会ってから随分変わってしまった。
物怖じせずに話し掛けるようになった。
だがその分女生徒からの評判は悪化する一方。
ただの空気から気持ち悪がられている。良いのやら悪いのやら。
最近かなり大胆になったとの噂。ワイルドカズトが見られるか?
「先生もやせ我慢しないでさ…… 」
アイに言われるとどうしても断り切れない。
やっぱり俺のお気に入りだからな。
バカな子ほどかわいいと言うがこれほどかわいくなかったらどうだったことか。
「俺は婆さんの荷物が重いせいか暑くて仕方ないんだ。
お前たちももっと荷物を持てば寒さなど気にならなくなるだろうさ。
どうだ? 一つ持ってみるか? 」
ただ汗がすぐに冷たくなる感じがある。
このままでは気づかないうちに低体温症になる恐れも。
やっぱり寒いんだか暑いんだか俺にはよく分からない。
体がまだ慣れてない。
本来暦の上ではまだ夏。お盆も迎えてない。
夏の暑さと格闘する毎日だったがここに来て寒さと戦うことになるとは。
さすがは常冬村。我々の常識の遥か先を行く。
「先生マイナス一度だって。いや二度かな」
大騒ぎするのはやはりカズト。
アイとカズトがこの異世界探索隊のお騒がせコンビと言っていい。
いつの間にかワイルドになったカズトと常にうるさいアイ。
「なあ。お前ら気が合うんじゃないのか? 」
アイをからかってみる。もちろん本気では言ってない。
俺のかわいいアイを誰にも渡す気はない。
おっと…… いつの間にか感情的になってるな俺? 冷静に冷静に。
「冗談はやめてよ! アイには先生しかいないの! 」
ははは…… お前こそ冗談言いやがって。気持ちは嬉しいけどな。
たまにアイと子供のような言い方するのは俺に気を許してるから?
他の者。特にあの美人三姉妹二人にもそんな風に接してなかった。
俺は特別な存在? もちろんアイは俺にとって特別な存在だが。
当然生徒たちは皆特別な存在だが。でもアイはそれを遥かに超えた存在。
「マイナスか。うんそれくらいがちょうどいいな。
動けばいいんだ。ほら口ばかり動かさずに全身を使って歩け! 」
「ヘイ。もう無茶苦茶だよ。ミホ先生! 」
「可哀想に。気にしないでね」
「はーい」
あいつらミホ先生に甘えやがって。俺だって誰の目も気にせずに甘えたいわ。
だがそれは出来ない。隊の士気に関わる。ここを仕切るのは俺だ。
その教師で隊長の俺が情けない態度を少しでもとればもう誰もついてこなくなる。
それは我慢すればいいことだが一度でも崩れれば隊の結束などすぐにバラバラに。
だから自分に厳しく生徒にだって当然厳しく。
「あの聞いてます? 零下なんですよ? 」
イセタンが黙ってない。
「まったくお前たちは…… これくらいのことで動じるな!
ここはお前たちの想像を遥かに超えた世界の常冬村なんだ。
これくらいの洗礼どってことないさ」
生徒に言ったつもりがお婆さんが感心する。
「よく言ったあんた! 最近の若いのは軟弱でいけない。
うちの町の若いのもどんどんひ弱になってね。ああ嘆かわしい。
お前らこんな寒さが何だと言うんだ? 村さ行けばこんなもんでは済まないよ」
力説して俺の援護してくれるのは嬉しいが生徒たちに悲惨な現実を教えるな。
これでやる気を失われたら困るのは俺。軟弱でひ弱か? マッチョで頑強か?
極端すぎずに間を取るべきだろう。
「でも婆ちゃんだって楽してるでしょう? 」
カズトは鋭い。
「ああん? ガキが生意気を言いおって! オラのはただの老人の知恵。
年の功と言う奴じゃ」
それでもカズトは譲らない。当然お婆さんも引きはしない。
「まあまあカズトもほらお婆さんも」
俺が止めないと雰囲気が悪くなる。
「イタタタ…… 」
「ほら興奮するから腰に来るじゃないですか? 」
俺がいくら止めてもお婆さんが攻撃的。生徒たちはそれに反感を持っている。
お婆さんに出現により再び隊にひびが入る。
口の悪いお婆さんに我慢できず応戦するメンバーたち。
もう少し仲良く出来ないのか?
それにしてもお婆さんは本当に腰を痛めたのだろうか?
動きが軽やかで俄かには信じられない。
続く